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有限の時の中での無限 3

「むげんぺん?」 パリッとした上等なスーツを品よくおしゃれに着こなした男は、イオンが差し出した細い棒を顔に近付けて首を傾けている。 待ってましたと言わんばかりイオンは頷いた。 「はい。 沢山文字を書かないといけない!でも時間がない!そんな時ってありますよね? 羽ペンをインクに付けている時間が約1秒としても、それが10回20回100回と重なっていけばとんでもないロスになるというわけです。 仮に1日30回30秒だったとしても、1年間では10950秒…182分…つまり年間約3時間もの時間のロスが生まれているというわけです! 物を書く時間が多い人はこれが更に2倍、3倍となっていくわけでして…」 テレビの通販番組ばりに早口に説明すると、 ハートン学園の理事長であるハートン・ウィリンスは小さく笑いながら イオンがヴェネッタと共に開発した無限ペンことボールペンライクの筆記具で手元にメモ紙に試し書きし始める。 「なるほどね。羽ペンよりも長時間かけるというわけだ」 「そうなんです!しかも一度の補充でかなり持つのですねぇこれが!」 「さすがリチャーデルクスくん。なかなか面白いことを思いつくねぇ」 「俺はアイディアを出しただけで、ヴェネッタ先輩が形にしてくれたんですよ これをもっと大量生産出来るようになれば出資者への還元はもちろん、雇用も増やせますし、そこで得た収益で安定的に財団の運営にも……」 イオンの現代日本人起業家すぎる説明に、立派な机の向こうで理事長は口を歪めて笑っている。

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