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力を持つ者 2

例によって聖堂で祈っていると、不意に背後に気配を感じたが レンシアはそのまま祈り続けていた。 信心深い生徒が礼拝に来ただけかもしれないし、昨今の若者達にとっては聖堂は最早パワースポットくらいのものだったから。 「…なるほど、君がレンシア君か…」 しかし、聞こえてきた声はレンシアに用があるようだった。 レンシアは顔を上げて振り返る。 そこに立っていたのは、生徒や教師ではなく見慣れない男だった。 装飾の立派な白色のロングコートは、皇帝家付きの上級魔法使いの証だった。 30代後半くらいの男は、どこか冷たい瞳でレンシアを見下ろしている。 「…噂通りのようだな」 そう言って男は床に跪いていたレンシアに近寄ってくる。 レンシアの噂、といえば悪い噂ぐらいしか思い浮かばないが まるでこちらの魔法をシャットアウトしているかのように表情や雰囲気からも考えが読めなくて、レンシアはおずおずと立ち上がった。 「俺に何かご用でしょうか…?」 「世間からはどうにも評判が悪いようだが…、君の魔法は本物だ。 この空間は完璧な状態になっていると言える」 男は聖堂を見回しながら呟いた。 相手は皇帝家に直接支えている上級魔法使いで、皇帝家からのレンシアに対する評価は最悪なのは分かりきっている。 何か嫌味でも言いに来たのかと、レンシアは男をじっと見つめた。

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