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力を持つ者 5

「有事の際は君には国営側に付いてもらいたい」 「国営側…?あなたは一体…」 男は立ち上がるとレンシアに近付いてきて顔を寄せてくる。 冷ややかな黒い瞳に見下ろされ、怯えながらもレンシアはジンシーバを守るように抱きしめた。 「皇帝家は今少し不穏な動きを見せている…」 小声で呟かれ、レンシアは驚き目を見開いた。 「我々が重視すべきなのは国がより円滑に運営され、隣国や他種族との穏便で生産的な関係だ。 その為には力を管理し、ある程度の抑圧は必要だ」 「……俺の力が、危険…だと?」 「これは一個人だけの話ではない。国全体の話だ。 より多くを救いたいと思うのであれば…な」 男はそう言ってレンシアの肩に触れ、去っていってしまった。 そんな事を言いにわざわざやって来たのだろうか。 ジンシーバは男の背中を見つめていたようだったが、 姿が見えなくなると不思議そうな眼差しでレンシアを見上げてくる。 『あいつわるいやつ?』 素朴な疑問に、レンシアは目を細めながらドラゴンの頭を撫でる。 「…本当の意味で、悪い人など居ないのですよ…ジンシーバ」 『ほんとう?』 「あなたにどう見えているか分かりませんが…この世界は多面的なのです。 一方から見れば悪でも、別の角度から見れば善にもなる」 『れんしあはいいやつ!すき!』 「ふふ。あなたにとってそうであるのなら光栄ですね」 単純でもまっすぐな言葉をぶつけてくれるドラゴンは素直に可愛らしいと思えて、レンシアはドラゴンに頬擦りをするように抱きしめた。 あの男は、ドラゴンの事もただの強力な兵器くらいにしか思っていないのかもしれないけれど 皇帝系家の不穏な動き、にはレンシアも少し引っ掛かるものがあった。 以前にリウムも、何故“大天使“と交わろうとするのか、と皇帝家を少し批判的に言っていたような気がして。 レンシアは自分がそんなに力のある存在だとは思えていなかったが、 稀有な能力を授かった事は受け止めなければいけないのかもしれない。 力は使い方、なのだから。 『はらへった!』 「……そうですね、行きましょうか」 レンシアはドラゴンを肩に乗せて、聖堂を後にするのだった。

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