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余地のないこと 5

「っ、やめて……!お願い…っ…!」 「やるんだな?」 男の言葉にレンシアは唇を噛み締めて頷いた。 「レンしぃ…、どういう事か分かっているのか…っ どうせこいつらは俺達のことを生かす気なんかないぞ…!」 「それはお前の身の振り方次第だ、レンシア」 男はそう言うと、ローラの足に容赦なくナイフを突き立てた。 「ローラさん!!!」 「…ッ、てめ…え……」 ローラの足からは赤い血が流れ始める。 「頑張って耐えても1時間といったところか。 その前に死ぬ場合も大いにあるだろうな。 妙な動きをすればこのナイフを抜いてもっと死期を早めてもいい。こいつが人質として役立たずになれば今度はこっちを甚振ろうか?」 男はそう言いながらくつくつと笑い、足元にあった小さな檻を蹴った。 怯えて大人しくなっていたジンシーバはガタガタと震えている。 「なんてことを……っ…」 「お前が言う資格はないぞ?これから殺人者になるんだからな」 「…っ…」 レンシアはようやく拘束を解かれて、小瓶を渡された。 ローラは床に倒れ、ナイフが突き刺さったままの足からは血が流れ出している。 「……はぁ……、レン、しぃ……やめ、ろ……従…う、な…」 「ごめんなさい…ローラさん……」 レンシアは震える手で小瓶を握りしめて、男達に囲まれながら小屋を出た。 外はすっかりと日が昇っていて、 どうやらもう昼頃になってしまっているようだ。 「いいか?俺たちはお前を遠くから監視している。 お前はまっすぐにエルメーザの元へ行き、その毒を飲ませろ。 俺たちの存在は一切明かすな。 もしも…しくじったり、何か妙な事をしでかせばあいつらがどうなるか分かるな?」 「……俺が…エルメーザさんにこれを飲ませたら、ローラさんは助けてくれますね…?」 「そうだな。手当くらいはしてやろう ついでにお前との記憶も消してやる。そうすれば命は取らなくて済むからな。 これで満足か?」 「ええ…ありがとうございます……」 「じゃあさっさと行け。お前の魔法は上級魔法使いにも引けを取らないんだろ? 期待しているぞ」 レンシアは頷きながら、学園へと向かって走り出した。

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