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最後のティータイム 3
「…どうした?ここは結界が貼られている
ここで話した事が漏れる事はないぞ」
エルメーザは何らかの事態に気付いているらしく、背中に声をぶつけてきた。
レンシアは男達から受け取っていた小瓶を震える両手で握り締めた。
「……“癒しの魔法”は…、誰かや何かを救うための…魔法です
…でも、現実は…“全てを救う”事はできない…」
棚からティーカップを取り出し、震える手で、
食器をガチャガチャと言わせながらの紅茶を注いだ。
「より多くを救うには…“何か”を…犠牲にしなくてはいけないのかもしれません……」
そして、小瓶の中の透明の液体をカップに注ぎ入れる。
心臓があり得ないくらい脈打っているのに、凍り付いてしまっているように息苦しい。
レンシアは震える手で紅茶の入ったカップを持って、エルメーザの元へと向かった。
エルメーザは何か言いたげにこちらを見上げてくる。
「何を犠牲にするつもりだ?」
「……俺が……差し出せるものを……」
「レンシア、何を隠している」
エルメーザは紅茶を受け取ったものの、それをテーブルの上に置きジッと深紅の瞳で見つめてくる。
レンシアは崩れ落ちるように彼の向かいのソファに腰を下ろした。
「………あなたを殺すように言われました…」
「何?」
「…エルメーザさん…精霊も…、いや、“あちらの存在”もあなたを欲しがっていたのです……」
レンシアはぐちゃぐちゃの頭の中で、呆然と言葉を紡ぎながら
美しい琥珀色の紅茶を眺めた。
「あなたは…次期皇帝というもの以上に、何か重要な力があるのでしょう……
俺が次から次へと面倒を起こすように…、ただ…穏やかに暮らしたいだけなのに、何かに巻き込まれてしまうような…
そういう…何か、意味のようなものが…あるのでしょうね…」
自分でも何を言っているのか分からず、レンシアは頭を抱えた。
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