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目撃者 4

「ローラ…ごめんね、巻き込んでるみたいになって… 無理…しないで欲しい…」 イオンは吐くならそこに吐けと渡されたバケツを抱えているローラを見下ろした。 眼鏡の無い顔はどこかやつれているようにも見える。 「そんな顔をするな…イオン… 俺がこんなレベルの低い記憶改竄魔法を破れないわけないだろ…絶対すぐに思い出して …………う」 ローラはそう言いながら再び吐き始めてしまう。 「無理しないでってば……」 イオンは彼の背中を撫でながら、ローラまでどうにかなってしまったらいよいよと立ち上がれなくなってしまう気がして、恐ろしくなっていた。 「今は自分の身体を治すことに専念したがいいでローラ… 俺たちでなんとかできんか考えるから」 イヴィトの真っ当な意見に、イオンも頷いておいた。 2人は昼休みにまた様子を見に来ると伝えて、一度授業に戻る事にした。 自分達には今のところ、何も出来ないようだったから。 イオンは授業中もずっと上の空で、 再び眠りについたドラゴンを膝の上に乗せたままぼうっと授業をこなしていた。 いつもポケットに忍ばせていたハンカチを取り出してこっそり眺め、その金色の刺繍を指先で撫でながら レンシアさんが死んでしまったら、 という不吉な思考を何度も何度も剥奪しようとするのに精一杯で 授業の内容なんて入ってこなかった。 「なぁ…あの嘘吐き、極刑になるかもしれないってさ」 「まじかよ。そうなったら観にいこうぜ」 ヒソヒソと聞こえてくる最悪の会話には怒りすら湧き起こってこなかった。 この国の極刑は斬首、らしい。 「…っ…」 イオンはハンカチを握り締めながら、奥歯を噛み締めた。 可能なら代わってやれないものかとすら思う。 だけどレンシアにこんな想いはさせたくもない気がして。 自分には何も出来ないのだろうか。 後悔しない選択をしようとはしているけど。 選択すらできないだなんて。

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