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狂信者たち 1

どうせ戦って死ぬのなら、 後悔しない戦いをするのだと彼は言っていた。 本当にその通りだなと思いながらレンシアは、窓すらない狭苦しい牢の天井を見上げていた。 ずっと頭がぼうっとなっていて現実味がないみたい。 婚約破棄されて絶望していた時と同じのような気がするけど、もっと物理的に身体が重たくて言うことを聞かないような感じもした。 手錠が嵌められて格子の中にいるので、確かに自由ではないのだけど。 「……イオンさんもジンシーバさんも…何してるかなぁ…」 自分でも驚くくらいの呑気な声だったと思う。 でも、自分でも驚くくらいにはレンシアは不思議と落ち着いていたのだ。 確かにネガティヴな気分にはなっているし、感情を表すなら哀に近いのだろうけど 無駄に足掻くことをやめて運命を受け止めているみたいに思えるくらいだった。 エルメーザは一命を取り留めたものの、 皇族に対しての暗殺未遂は国家反逆及び国家転覆が結び付く重罪である。 企てた時点で犯罪なのだ。 復讐という充分な動機もあり、今は何の社会的権限も持たないレンシアの意見は聞く耳を持たれないし きっと極刑は免れられないだろう。 レンシアは何故か小さく笑いながら、硬いベッドの上に腰掛けてじっとしている他なかった。 思い残すことがあるとすれば、生まれたばかりのジンシーバの事だったが イオンはきっとうまくドラゴンを守ってくれる事だろうとレンシアは勝手に信じていた。 ジンシーバは彼にも懐いているようだったし、それに自分が死ねば盟約は勝手に解除されてドラゴンは自由になるはずだから、と。 人間よりも強くて高尚な生物だから、きっと自分で自分の道を見つけられるだろう。 イオンも、きっとそうだ。 とても傷付けてしまう事には間違いないけれど、彼だったらきっともっと良きパートナーを見つけられるに違いない。 優しくて、強い人だから。 イオンの事を思うと勝手に幸せになってしまうから、 レンシアは目を閉じて、瞼の裏側に彼の姿を思い描くのだった。 「重罪を犯したというのに何をにやけているんだ…」 呆れたような声が聞こえてレンシアが顔を上げると、格子の向こう側に男が立っていた。 どうやら看守のようだ。

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