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狂信者たち 7

「イオンさんのこと、これからも助けてあげてください… それから……どうか…、俺のことは忘れるよう伝えてくださいね」 こんな事を言う資格はないかもしれないけど、こんな事で優しい彼が止まってしまわないように、 せめて彼がなんの罪悪感も抱かずに、次に進んでくれたなら、と。 レンシアは、何もかも押し付けてしまった自分がイオンに出来ることはこれくらいだと思ってしまっていたのだった。 「エカルティさんも、俺の為にありがとうございます。すごく嬉しかったです …でも明日は来てはいけませんよ?」 「ヒィ!?名前を呼ばれた!?!」 レンシアは、看守に睨まれたのでそろそろ行かねばと格子から離れ、彼らに背を向けた。 「…っ、そ…それは…請け負えないですよ…レンシア様…っ 諦めていいのですか…!?イオン殿と一生会わないおつもりですか…!? い…イオン殿が…っ、レンシア様を忘れるだなんて…できると、思いますか!?」 「……」 「れ、レンシア様だって…、本当は、離れたくないのではないですか…っ!? 一緒に居たいんじゃないんすか……っ…!?」 ヴェネッタの声が背中にぶつかったが、レンシアは振り返れなかった。 唇を噛み締めて、なるべく自分の心を押し殺しながらぴんと背筋を伸ばして歩き出す。 「じ…自分っ…来月の“お相手総選挙”はイオン殿に投票しますからなぁぁ!!」 「絶対助けますぞ!!レンシア殿!!!」 「お前たちいい加減にしろ!!」 2人の絶叫を感じながらも、レンシアは複雑な気持ちで牢まで戻っていった。 「全く…なんだありゃ。 サルに頼んだ方がまだまともな弁護をして貰えそうだなぁ」 看守の男は鼻で笑っていたが、レンシアは何も言い返さなかった。 今は自分の味方をするだけで他の罪になるかもしれないのだ。 レンシアは、もうこれ以上誰であっても傷付いて欲しくないと思っていた。 自分を想ってくれる人なら、尚更。

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