440 / 513

審判の時 1

レンシアの裁判には大勢のマスコミが押し寄せ、記者席は異例の抽選にもなったのだという。 レンシア自身がどうというよりも、度々不名誉な話題を提供し最終的には国家反逆を企てた稀代の大悪役の審判はどう転んでも 世の中の関心を集めて仕方がないのだろう。 “何も悪い事をしていない”のであれば恥じる必要はない、とレンシアはかつてリウムに言ったことがあった。 誰かにとって悪い事なのかどうかと言われれば、きっとそうなのかもしれない。 だけど、自分にとって悪い事、は、2人を見殺しにする事だったとレンシアは思っていた。 だからこれは、自分の中では“何も悪い事をしていない”事になると言い訳はできるだろう。 レンシアはいつものように紫色のリボンで髪を綺麗に結って、堂々と背筋を伸ばし法廷へと足を踏み入れた。 入った瞬間に傍聴席からヤジが飛んだが、なんだか最近身体を襲っていた倦怠感がふっと消えて軽くなった気がして レンシアは顔色一つ変える事なく被告人席へと向かった。 するとそこには昨日面会に来たエカルティがいて、レンシアは小さくため息を溢した。 「だめだって言ったのに…」 「推しを弁護できる貴重な機会をみすみす逃すわけないでしょう!」 エカルティは鼻息荒く意味不明な事を言っている。 「レンシアたそ…、あなたのご友人達は皆メロ…推…、素晴らしい方々だ。 あなたの身を案じつつも、あなたの名誉を守ろうとなさっている」 「俺の名誉……?」 「小生は、あなたが正義の為に行動したという証明をして欲しいと頼まれたのですぞ」 エカルティの言葉にレンシアは少々驚いてしまった。 横目で傍聴席を見ると、よく見知った顔があった。 そしてそこには、ドラゴンを抱えたイオンの姿も。 『れんしあ…!』 いつものように紫色のリボンをつけたドラゴンは、大きく瞳を開いてじっとレンシアを見つめている。 元気そうにしている様子には、ホッとしたものの ジンシーバを抱えているイオンは、 二日くらいろくに寝れて居なくて食事も喉を通らないみたいな憔悴した顔をしていた。 それでもちゃんとドラゴンを大事に抱えてくれている様子は、自分の言った事を守ってくれているみたいに見えて。 決心が鈍りそうになり、レンシアは我慢して目を逸らした。 「……俺は…“事実”を話しますが…弁明はしないつもりです。 …お任せします…」 妙な心地だった。 この空間にいるほとんどの人間がきっと自分に対してよく思っていないだろうし、死を以て償うべきだと言っているのだろうに。 自分の行動が果たして正義なのかは分からないが、レンシアにはこれが最善な気もしていた。

ともだちにシェアしよう!