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自分に誇れるように 1

レンシアが現れた時にはあんなにヤジを飛ばしていた傍聴人達はローラの証言で掌を返しつつあり 真犯人と思しき“反魔法主義”への糾弾を口にしている。 しかし裁判が再開するとみな口を閉ざした。 証言台に立たされたレンシアの背中をイオンは泣きそうになりながらも歯を食いしばって見つめていた。 彼の髪にはいつものように紫色のリボンが美しく結ばれている。 金色の髪は、いつもよりは少しぱさっとなっているがそれでも太陽のように輝いていた。 「……レンシアさん…」 イオンは腕の中のドラゴンを強く抱き締めた。 レンシアが近くにいる所為か、ドラゴンは随分と元気になっているようだが 不安げにレンシアを見つめている。 「…被告人、何か仰りたいことはありますかな?」 裁判長に問われ、レンシアは小さく息を吐き出し顔を上げた。 「……俺はここの所ずっと祈っていました。 自分が自分として生きられるように…、そして自分に誇れるようにと。 だからそのように行動しました。 …でも、全ての人間を完璧に救う事は難しいのかもしれません… あの方達は魔法使いや皇帝家だけでなく…国を… 世界そのものを恨んでいるようでした…、…抑えきれない怒りと憎しみ…そして、悲しみを感じた…… きっと誰しもにそういう気持ちはある… どんなに善くあろうとしていても、そう出来ない時…そして…いつしか恐ろしいことを企ててしまう時が…。 俺は善き友人に出会い、そのような気持ちを抱かずに済みました。 だから…俺もそうやって、怒りや悲しみに囚われた人に会ったら、善き友人になれたらと思ったのです。 何かを非難するような声をかけるよりも、一緒に…サンドイッチを食べたり…水族館に行ったり…誕生日を祝ったりして笑い合えたら…自然と怒りや悲しみの気持ちは小さくなっていくと、友人達に教えてもらったからです。 出来れば…皆さんにもそうであって欲しいと願っています。 善き友人に…愛しい人に… そして自分に誇れる、行動を選んでほしいと。」

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