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自分に誇れるように 2

レンシアの言葉は、この後に及んでまだ誰かに寄り添おうとしているように聞こえて イオンは我慢しようと思っても眼から涙が滲み出て来ていた。 その背中が凄く遠くて、追い付けないくらい遠くて。 だけど愛おしくて。大切で、たまらなくて。 昨日あんなに覚悟したはずなのに。 やっぱり、あの人を失うと思うととても耐えられないような。 「…俺には誰も殺せませんでした。 例えどんな人間や存在であっても…俺の選択で誰かの命が奪われるようなことが…あってはならないと思ったのです…… 俺が…差し出せるのは……俺の持っているものだけですから…」 「……それが、自らの命、だと?」 裁判長の言葉にレンシアは頷いた。 「…もう、何も言うことはありません。 俺がローラさんやエルメーザさんや…ジンシーバさんを巻き込んでしまって危ない目に合わせてしまった事に変わりはありませんから。 然るべき罰は謹んでお受け致します」 エカルティ達が言い争っていた時はあんなにざわついていた傍聴席は静まり返っていた。 レンシアの纏う空気は酷く穏やかで、光に包まれているみたいに見えた。 それはイオンに恋愛フィルターがかかっている所為だけではなさそうで。 「…被告人、レンシア。君の友人を救おうとする勇敢な行動、そして選ばれし力の使い方は賞賛に値します。 しかし一方で魔法使いに課されている、“何に替えても皇帝家を守らなければならない”という責務と逆行し 安全性が不確定な液体を秘密裏に仕込ませ、エルメーザ殿下に飲ませた事は由々しき事です」 裁判長の言葉は最もだった。何も反論出来ないくらい。 レンシアも低頭したまま何も言い返さなかった。

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