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それでも、付き纏う事 5

「俺達を拘束した“反魔法主義”の方々は…、皇帝家が黒魔術の為に戦争を起こそうとしていると言いました…」 「やはり…か」 「それに…“別の派閥の反魔法主義”が絡んでいる…?」 「分からん。だが、魔法が手に入るぞと言えば支持をする連中かもしれんな」 「…でも…黒魔術なんて…いくら魔法を持たない人達の為とはいえ…」 「いいや。黒魔術で得ようとしている力は全て自分達の為だろう。 健気な非魔法人達の代弁者というわけではない。ついでに彼らも力を得られるのであれば良いのではないか、くらいのものだ」 「…え…?で、でも…皇帝家は…もうこれ以上無いほどの…」 「誰しもが君のように慎ましやかだとは思わない事だな。寧ろ人間というのは欲求に底のない生き物だ。 最初は10さえ手に入ればと口にしていたのにいざ手に入れば100欲しいと言い出す。 上層部に行けば行くほど目先の欲に飛びつくような、そんな連中ばかりだ」 クレンの言葉はなんとなく分かるような気もしてしまって、レンシアは再び俯いてしまう。 確かに、人は次から次へと何かを求めてしまうけど 他人を犠牲にしてまでのものなのだろうか、と。 「だが…もしも国民全員が魔法を手に入れてしまったらこの国の秩序は崩壊する… それどころか…そもそも今は戦争なんてやっている場合ではないのだよ…」 クレンは疲れたようにため息を溢していて、中間管理職は色々と大変なのだろうと思ってしまう。 しかし彼の考えに全面的に同意できる訳ではなかったが、概ねの方針は賛同できるような気がするレンシアだった。 戦争なんて起きてほしくないに決まっているから。 「クレンさんの仰る通りです…戦争なんてしている場合じゃない 魔法を持つとか…持たないとか以前に…… 今…生きるか死ぬかという瀬戸際に立たされて…助けを求めている人はいるはずです…」 自分もかつてそうだった、とレンシアは他人事とは思えなかったのだ。 それはもしかしたら今もそうなのかも知れないから。 身寄りもなく、誰を頼ればいいのかもわからない状態で。 もしもイオンが居なかったら、と思うとゾッとしてしまうくらいには。

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