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父たち 1
「緊張しないでって言ったら難しいかもしれないけど…、いつも通りのレンシアさんでいいからね」
「う……はい……」
レンシアは少し浮かない顔をして俯いてしまった。
次期皇帝との婚約で相当なプレッシャーを感じていただろう彼に、あんまり似たような感じにはなってほしくなかったが
こればかりは仕方がないのかもしれない。
せめて少しでもフォローとかケアとかしようとイオンは心に誓って、彼の背中を撫でてあげた。
「イオン!」
ドアが勢いよく開くと同時に大声で呼ばれて、イオンは思わず飛び上がって振り返った。
両開きのドアを開け放ったままの体勢で満面の笑みを浮かべている男がそこに立っていた。
普通の所のドアよりも大きめな作りではあるのに、頭はドアの天井スレスレになっていて、
上等なスーツに身を包み口髭を携えたオーラのある彼こそがイオンの父であるリチャーデルクス侯爵だった。
侯爵は両手を広げながら部屋に入ってくる。
「と…父様…」
「久方振りだな!よく戻った!我が息子よ!」
イオンが立ち上がって彼に近寄ると、がばっと抱き締められてしまった。
力が強すぎて結構痛いくらいだったが、熱烈歓迎には苦笑してしまう。
「お久しぶりです……」
「全く待ちくたびれたぞ!」
侯爵はぎゅうぎゅうとイオンを抱き締めてきて、いつ終わるのだろうと思ってしまっていると
彼の肩をとんとんと誰かが叩いている。
「ちょっとバッハくん、イオンももう子どもじゃないんだから。
やめてあげなさい」
横を見ると、侯爵に向かって指を立てて怒っている男の姿があった。
眼鏡をかけ、長い髪を緩くまとめて肩に流している。
もう1人の父親であるフィヲだった。
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