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親として 3
「……愛してくれているんだな」
レンシアは思わず隣を見てしまった。
フィヲは眼鏡越しにじっとレンシアを見つめていて、その鋭い視線にはついだらだらと汗が伝っていってしまう。
自分は親御さんに何をくっちゃべっているのだろう、と。
「す…すみません…大切なご子息に…俺のような…」
「んん。謙遜は良くないな。
敬ってくれるなら選んでもらえた事を誇りに思って堂々としていれば良いんだよ」
フィヲはグラスに口をつけて酒を飲みながら微笑んでくれた。
「ご覧のようにこの屋敷は少々不便だ。
僕らは頻繁にはここに戻って来れなくてね…正直イオンにはあまり構ってやれなかったと思う…
僕らはあんまりちゃんとした大人ではないからね。
なのにまっすぐ育ってくれて…
…時々、僕らよりもこの子の方が立派な大人なんじゃないかって気がしてしまうくらいだ」
イオンは、一度別の人生を終わらせてここへ来たと言っていた。
そういう意味では本当は彼らよりも年上なのかもしれない。
だけど、ちゃんと両親の事を尊敬していそうだったし
彼らもまたイオンの事を深く愛しているようにレンシアには感じられた。
「…でも、バッハくんも言ってたように僕らにとってはいつまでも可愛い子どもだからさ。
あんまり家の重圧とか堅苦しい貴族の世界とかに押し潰されずに、出来る限り自由に生きて欲しいんだ。
…いつかは、きっとそういうのにも向き合わなきゃいけなくなるんだろうけど…」
フィヲはそう言いながらイオンの頭を撫でて、愛おしそうに目を細めた。
「でもそういう時、側にいて支えてやれるのはやっぱり僕らよりも…君みたいな人なんだと思う。
イオンが必要として、選んでいる人、だね。」
「フィヲ様…」
彼はレンシアの頭も同じように撫でてくれて顔を近付けてくる。
「…イオンの事よろしくお願いしますね、レンシアさん」
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