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第10話 初めてのデート

「冷司!ここ〜!」 「光輝!」 図書館の玄関横で、光輝が待っていてくれた。 名前通り、彼はピカピカ光って見える。 嬉しくて、抱きつきたい気持ちを抑え、彼の元に急ぐと、彼の方から走ってきた。 「そっち行くから止まって待ってろー」 光輝は息も乱さず走ってくる。 「ここで待ってれば良かったな」 「遅くなってごめん、歩くの遅くて1つバスに乗り遅れちゃって」 「いいさ、行こうぜ。ほら、もうちょっと頑張れ。バスで座れるから」 パッと光輝が冷司の手を取り図書館の横のバス停へ歩き出す。 遅い冷司の歩調に、光輝は合わせて歩いてくれる。 それだけでもの凄く嬉しい。なのに、更に彼は腕を組んで支えてくれる。 冷司はドキドキしながら、彼と市内の水族館へとバスに乗った。 一つ乗り継いで、バスが水族館前に着く。 冷司はいつもの図書館に行く荷物で、筆記具やノートを沢山入れたバッグを持ってきている。 光輝はサッとその荷物を持って冷司の分も金を払い、手を引いて降りてゆく。 今日は荷物持ちやるからと言う彼に冷司は苦笑して、中から折り畳みの杖を取った。 「見た目悪いけど、長く歩く時は……杖なんだ、使っていいかな?」 「当たり前だろ?足が悪いだけなんだから気にすんな」 「お爺さんみたいだろう?光輝が気にするかなって」 「馬鹿言うな、気にするわけないさ、行こうぜ。 疲れたら言えよ、椅子見つけたら休もう。俺もラクが出来るじゃん」 笑う光輝が手を繋ぐ。 「お、お金、僕持ってきたよ!だから、自分の分は払うね」 「バーカ、今日は俺のおごりな。好きな奴に奢る、勤労者の楽しみを奪うな〜」 「ありがとう、……ありがとう光輝、コウ!」 グッと光輝が親指を立てて、冷司の頭を撫でる。 冷司は脱力して涙が浮かんだ。ただただ嬉しかった。 この一万円は僕の最後の全財産だ。 これがあれば、コウのアパートまで往復出来る。 コウの所まで、逃げることだって出来る。 僕は、それだけで生きていける。 「んー、キスはお預けだ」 「くふふ!」 早速水族館に入ると、光輝がチケットの半券を一枚くれる。 「ほら、日付も付いてる。丁度いいや、初デートの記念品な」 それには日付が押されて、アシカがいらっしゃいと挨拶する絵が描いてある。 「大事にするよ、ありがとう」 あとでしおりにしようと、大切に、しわにならないように丁寧にノートに挟んだ。 水槽を見て回り、ベンチを見つけては休憩して、アシカのショーで笑って楽しい時間を過ごした。 平日の午前中だけに、人が少なくゆっくり見て回れる。 楽しい時間はあっという間なのに、家での時間は重苦しく、なかなか過ぎない。 神様は意地悪だと冷司は思う。 ずっと、ずっと、この時間が続けばいいのに。 ベンチでクレープ食べて、昼ご飯どうする?と光輝が聞いてくる。 「街に出てランチする? 資金は万端だ、好きなの言いいたまえ〜」 なんか高級な物言われても大丈夫、金下ろしてきたし。 でも、冷司は思いがけないことを言った。 「僕、また光輝の家でカップ麺食べたい」 「マジ?そんな安い物でいいの?」 冷司が大きくうなずく。 フフッと笑って、光輝が立ち上がると冷司に手を差し出した。 「じゃあ、早速行こうぜ!腹減ったし!」 見上げる冷司がまぶしく光輝を見つめる。 背後からさす木漏れ日が、なぜかひどく美しい。 冷司が恐る恐る手を差し出すと、光輝が掴んでグイと引き上げる。 まるで、溺れた自分を救い出されたような、そんな気さえした。 バス停まで手を繋いで歩いていると、光輝がキョロキョロする。 「以外と、じろじろ見られないんだな」 「んー、そうだね、最近は社会的にも認められつつあるし。 でも、嫌いな人は嫌いだろうね」 「うん、まあ、職場で何か言われても突き通すわ」 「迷惑かけるのは嫌だな」 「迷惑かけるじゃねえよ、俺も冷司が好きなんだから。 生きられるところで生きよう。 一緒なら大丈夫だ。折れたりしない。 どこも雇ってくれないなら起業する」 「うん」 光輝の言葉は光にあふれてる。 冷司は何だか、自分も強くなれるような気がした。 バスで、アパートの近くまで来て歩き出す。 冷司はひどく疲れた様子で、足取りが重い。 光輝は彼の前に回ると、腰をかがめた。 「ほら、負ぶってやるから背中に乗れ」 「でも……」 「いいから、山育ち信じろ」 冷司が背中に乗ると、ヒョイと立ち上がる。 「なんだ、お前軽いなー。ビックリした」 「光輝の背中、あったかいなー」 「温かいじゃなくて暑いだろ、ああそうか。 バスの冷房効きすぎてたからな」 「うん、上着着れば良かった」 「お前ほんと身体弱いんだなあ、俺マジで守ってやりたくなるわ」 「やだなあ、恥ずかしいこと言わないでよ」 カンカン、アパートの階段上がって、冷司下ろすと鍵を開ける。 そう言えば、空き部屋あるのに募集の紙が無い。 「ここ、入居者募集が無いね」 「ああ、気がついた?立ち退き言われてんだ、マンション建てるんだってさ。 立ち退き料くれるって言うんで、みんなさっさといいとこ見つけて、もう俺しか残ってない」 「マジ?!」 「マジ〜、探してるけど、安くてほどほどきれいなとこ無いんだよなー」 「ここ、静かでいいもんね」 「サイコーだろ?残念」 中に入ると、冷司は部屋のカーペットの上にバッタリ横になり、光輝はキッチンで湯を沸かす。 「あーなんか水ばっか飲んでたよなー」 「水族館は涼しかったけどね」 「うん。お前またしょうゆ?同じのでいい?俺チキンラーメン」 「僕もチキンラーメン」 「はいはい」 小さなテーブルを出してカップ麺2つ転がして、お湯が沸くの待ってる間、光輝も座って一息つく。 寝っ転がってる冷司が、ククッと笑って言った。 「キス、しないの?」 冷司が髪をかき上げ仰向けになる。 ふうと小さく息を吐く唇が、薄く開いて光輝を誘う。 光輝がチラリと見て、ペロリと唇を舐めた。

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