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これが王道ですか - 1
朝、僕は寛智と共に校門から学園へと続く道のはずれにある森林の茂みに隠れていた。
朝、爽さんから「沙羅は起きる気配がないから行っていいよ」というメールが来たので、只今二人きりだ。
ちなみに僕はしっかり寝ましたよ。寝起きはいいから、目覚ましにもちゃんと気付いたし。
寛智はどうやら徹夜らしい。興奮して眠れなかったんだって。君は遠足前日の子供か。
「まだ来ないのか?」
「しっw門の前に誰かがいるぞよwww」
朝からハイテンションにダンボールに隠れながら囁く寛智。君、バレるぞ。
「お約束です!w」
お約束なら仕方ない。
「誰かって、あの黒髪の子?」
「そそwやはりもじゃもじゃマリモ頭に瓶底メガネよwww」
マリモは最初門の前でウロウロしていたかと思うと、後ろに下がりこちらへ走ってきた。
「お、おお……」
何? 門に向かって体当たりするの? 門の近くに呼び出しのインターホンあるじゃない? それを使う気は……消えたー!?
の意味を込めた声でした。
ズダッと着地した音が聞こえたのでそちらを見てみると、マリモがいまちた。
「飛び越えたの? バカなの? 不法侵入で訴えられるよ? 警報鳴るよ?」
「歩たん、その疑問に答えてやろうではないか。王道だから何でもありなのだよ!w」
いや、そんなどや顔られても困りますわ。
「――この門を飛び越えたのは驚きです」
静かな空間に、凛とした声が響いた。
黒い艶やかな髪を高くに一つにくくった武士みたいな髪型にノンフレームの眼鏡。いつも貼り付けたような胡散臭い笑み。
生徒会副会長様だ。
「しかし、ちゃんと門から入らないと駄目ですよ。近くに呼び出し音だってあるのですから」
すごくトゲトゲしく聞こえるのは僕だけであろうか。
副会長様は、転校生が固まっていることにようやく気づいたらしい。
「おや、失礼いたしました。私、本校の生徒会副会長を務めている飯田 透 と申します。よろしくお願いします。貴方は転校生である新島 朝日 さんでお間違いないですか?」
それにこの、淡々とした事務的な言葉、個人的に好きじゃない。
「あ、はい! そうだ! です!」
そうだですって。
「歩たん変なとこでツボっちゃあかんw耐えろ! 耐えるんだジョー!www」
僕は口を押さえて必死に笑いを収めるようとするけど、体が凄い震えちゃう。
「そうですか。では、理事長室までご案内しましょう」
「ありがとな! です!」
駄目だ、ギャグみがある口調が面白くて耐えらんない。
「あとさ、無理して笑わない方がいいぞ?」
ひーひーと腹を押さえ悶える僕は、「王道ktkr!」とか「私の笑顔を見破るなんて……気に入りました」「FOOOOOOOO! 生キスきたーー!」「やめろなにすんだ!」バキッ「顎に拳がクリーンヒッツ!」「は、初めてだったのに……っ」「そしてマリモ1人で行っちまっただー!w」という一連の流れに突っ込むことが出来なかった。
まぁおそらく多分通常でも突っ込むことが出来なかったと思う。
あと寛智うるさい。絶対あの人たちに気づかれてるよね、これ。でも反応がないところから、きっと自分たちのことで頭がいっぱいなんだろう。良かったぜ全く。
転校生が走っていってしまったあたりに、ようやく笑いが収まった。
「あとはクラスで会おうず。僕ちんは他のイベと萌を見てくるZE!」
とか何とか言い残し、「あーああー!」とターザンのように木々を乗り継いで行ってしまった。あの情熱を他のことに生かしてほしい、切実に。
「さて、こんなとこにいてもつまんないから行くか」
未だに延びてる副会長の腹をワザと踏み教室へと向かった。
そのときに「ぐぇっ!」とか悲鳴を聞いたけど、爽快だったわ(笑)
……………
「あー……」
やっちまった。
このことをすっかり忘れてしまっていた。
……僕、結構いろんな人に嫌われてるんだよねー。理由は知らんけど。
「平凡のくせして、いつも沙羅君といてさ」
「刹那様や五十嵐様にも近づいてさ」
「迷惑だってわからないの?」
「釣り合わないってわからないの?」
「いい気味だ」
あー、訂正。理由分かった。
くだらなさすぎて脳内消去してたんだった。
ちなみに聞こえるように悪口ってるのは、沙羅たん達の親衛隊じゃないよ?ただ僕らの見た目だけ判断しているただのビチクソ共だ。
こいつらは、僕が1人で歩いているときにしか嫌がらせをしない。
それを今回忘れていた僕も僕だから、やっちまった、になるんだよねー。
いつもは防いでいたのに、見事に頭から水を被ってしまった。外でそれするのはいいけど、中でそれするから皆からの注目度がヤバい。しかも階段だから尚更だ。階段の上からバケツを落とす典型的な嫌がらせを毎回する坊ちゃまズには笑わせられますぞ。
「――ったく、掃除するのは誰だと思ってやがるんだ」
一限は出れないかなーてか今何時だ、と考えながら、掃除ロッカーから雑巾を取り出し廊下を拭く。そのとき、ワザと僕を蹴ったり水を足で広がらせる輩も多数いたが、服をさっさと乾かしたいので気にせずさっさと拭く。
拭き終わった雑巾を洗い、外で乾かそうと向かった矢先、今度は上から落ちてきたゴミを頭から被る。
……このパターンは予測してなかった。
クスクスとした声が降ってくる。思わずため息をつく。高校にもなって幼稚だよね。
こんなんで毎回気を使っても面倒なだけだし、寮に帰って洗濯でもしようかしら。
向かう先を寮に変え、さっさと歩き出すと
「あ、歩……?」
沙羅たんに会ってしまった。今回は一番会いたくなかったなー。
どう反応していいか迷っていると、沙羅たんは鞄からタオルを取り出し、渡してきた。
「ごめん」
それだけ言うと、校舎へ歩いていってしまった。
最初、沙羅たんは僕が最初にこれをやられてこれが自分のせいだと分かったときは泣きそうになりながら逃げ去りあろうことか僕を避け始めた。
だけど僕はこの行為は同学年からは受けてないし、むしろ助けてくれることも何度かあった。だから、顔だけで判断する野郎共になんか負けたくないし、そのせいで沙羅たんが離れていくのも嫌だから、離れなかったんだよねー。
あ、長々と話しちゃった。もう部屋に着いたよ。
時計を見るとまだ8時。洗濯してその間にシャワー浴びて代わりのYシャツと下にジャージ履いて登校することにしよう。うん。格好悪いけどしかたないか。
えと、何の話だっけ? あ、そうそう、沙羅たんのさっきの行動ね。
あれ、僕が言ったんだー。
謝られてもどうしようもないし、毎回ついてきてもらっても申し訳ないから、タオル渡してくれるだけでいいって。
それが、あの行動になったわけ。貰ったタオルはもったいなくてまだ使えてない。返さないよ沙羅たんの私物だよ。勿体ないじゃん。
あ、変態とかは言わないでね? 自覚はあるから。
……さて、シャワー浴びたしエレベーターでさっさと行くことにしよう。
沙羅たんいないと階段使っても意味ないしー?
…………
「ブッフォwww」
教室に入った途端、寛智に吹き出された。騒がしいのにはっきり聞こえたのは何故だろう。
「歩たんカッチョワルスwww」
「やかましいわ」
「あうんっ」
寛智のお尻を蹴ると、気持ち悪い悲鳴を上げた。うん、キモい。
「ノノ大丈夫!?」
「ノノまたやられたか」
「ノノに手を出した奴はちゃんと懲らしめてあげたからね!」
ざわざわと駆け寄ってくるクラスメイトに自然に笑みがこぼれる。
そう、こういう風に仲間に思ってくれるクラスメイトがいるだけで僕は満足。
「また沙羅君をダシにしてやったのね」
「難波もいい迷惑だよな!」
「顔だけで判断する輩とかマジおこなんですけどー」
ざわざわざわざわざわざわ。
「やかましいわッ!」
思わず叫ぶと、ぴたりと声が止んだ。はっ、つい。
僕は気まずそうに咳払いすると
「僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「ノノ……」
「ほら、チャイム鳴るから早く席に戻れ」
僕の声にしずしずと席に着くクラスメイト。
ちなみにノノは僕のあだ名。いつの間にかそうなってたから別に気にしない。
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