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これが王道ですか - 2
ガラガラガラと教室の扉が開く。
「なんだお前ら、珍しく席に着いてんな」
そういいながら入ってきた担任は言わずもながホストやってるんじゃないかと思うほどスーツが似合う数学教師だ。その中身は極度の面倒くさがりや、何故か白衣を上に羽織っているから違和感がある。せめてジャケット脱げや。
「えー今日からクラスメイトが増える。お前ら、問題起こすなよ?」
問題起こすなって。
「これはフラグジャマイカw」
後ろからにやけた気持ち悪い声が聞こえる。
それを期にざわざわし出すクラスメイト。「おもしろい人かな」「クールな感じとかだったらどうしよう」
君たち、これから来るのはキチガイなマリモだぞ。
とはいえず、僕も黙ってことの成り行きを見守る。
「じゃ、入ってこい」
担任の声と共に入ってきた人物を見た途端、教室が静まり返った。だろうな。
「オレ、新島朝日だ! みんなよろしくな!」
ざわざわするクラスメイト。何かバカっぽいって言っているお前、正解だ。
「お前あそこの空いてる席に座れ。質問は1限目数学だから、そのときにしろ。以上」
その言葉に皆歓喜。あいつ、教え方うまいけど宿題が鬼畜だからまだやってない奴は救われたろうな。
「ん? どうした沙羅たん」
じー、とマリモを凝視していた沙羅たんだが、僕の言葉に「何でもねえよ」と顔を反らした。アウチ、僕はダメージを受けた。
「ムフフフフ腐腐腐腐腐。あとはお昼のイベントをこなすだけじゃ」
ムフムフ言ってるメガネ、うるさいぞ。あと息が荒くて気持ちワルい。
「グハッ! キモイじゃなくて気持ち悪いって無表情で言われると傷つく!w」
あら、僕ってば口に出てましたわね。
そんな会話を続けていると、視界の端に毬藻がこちらへ近づいてくるのを捉えた。マジっすか。
「沙羅たん。後ろ向いちゃダメだ」
「はあ?」
訳が分からない、と眉を寄せる沙羅たんカワイイッス。
「オレ、新島朝日っていうんだ!よろしくな、歩と寛智と沙羅!」
……ナゼナマエヲシッテイル。
サッカー部エース(笑)の橘 隆斗 (寛智がサワヤカイケメンと呼んでいた)が隣でニコニコと笑っていた。お前か。
「……」
うっはw沙羅たんシカトwww。
寛智から心の声が聞こえた気がする。僕らには顔が見えるけど、沙羅たんスッゴくめんどくさそうな顔をしている。
「何で無視するんだよ! 友達だろ!」
うわめんどくせー。昨日のアニメの通りだ。
「朝日のこと無視しないでくれる?」
ニコニコとどす黒いオーラを出しても僕らには効きません、サッカー部エース(笑)よ。
なぜ、(笑)をつけているかというと、僕知ってるんだよねー本当の新人エースを。
高総体で1年にしてレギュラー。9番をもらいFWで活躍して見事全国大会まで連れて行かせた子だ。
……あー、無性に会いたくなってきた。
って僕が言うってことは可愛いんだよ。分かる?
てことで会いに行こう。まだ時間あるし。逃げる理由にもなる。
そのためにはこいつをどうにかしなくちゃいけない。と寛智とアイコンタクトを取る。
「何で無視するんだよぅ……」
転校生は先程まで喚いていたが、突然泣き出した。それを知った野次馬は群がり、サワヤカイケメンは僕の胸ぐらを掴んできた。脳弱いのコワイー(棒読み)。
「ノノ、朝日泣かせないでくれる?」
冷めた目で彼を見る。こいつ嫌いだもん。驚く沙羅たんにアイコンタクトして毬藻を見る。
「僕達は、自分のことを隠すやつと仲良くなりたくないね」
手を振り払い「行こ」と二人の手を掴んで呆然とする毬藻を放置し教室を出た。
「どこいくんだ?」
「癒しに会いに行く」
そいえば沙羅たんはもう毬藻のことを忘れたのかい。
「沙羅たん毬藻のこと忘れたのかい?w」
僕と同じことを。
「クラスメイトにそんなやついない」
「ちょwww」
そんな話をしながら隣のクラスに着いた。
「そーらーくーーーん!!」
教室に入ってその子を見つけるなり飛び付く僕。
彼は驚きすぎてと僕の飛びついた勢いで椅子ごと後ろに倒れた。
「あ、歩君おおおはよ、く、苦し…っ!」
彼の苦しい声にハッとして少し力を緩める。
黒い瞳のたれ目に下がり太眉。紫がかったように見えるふわふわした灰色の髪は横に跳ねているこの沙羅たんにも劣らないほど小さい子は巳守 空 。この子がサッカー部の新人エース君だ。可愛い容姿に似合わないハスキーな声が僕のツボだ。
「今日お昼一緒に食べない?」
「今日は昼練が……っちょ、放してくれないかな……っ」
僕はみんながこちらを見ていることに気づき、しょうがないな、と渋々放すと、彼は体を起こし顔を真っ赤にして、大きく息を吐いた。
「馬乗り……」
「歩たん、それだけ見ると押し倒しているように見えるぞよ!w」
沙羅たんが冷ややかな目で見る隣で寛智はカメラをこちらへ向けカシャカシャと連写してくる。
目を見開く空たんは、顔が赤くなってりんごみたいになってる。チョーカワイー(ギャル風)。
「歩、他の人に迷惑だからやめなさい」
また抱きつこうとしたら不意に襟首を掴まれ、引き離される。イヤーン。
「せいー、許してよー!」
「他の場所でやれ」
ポイッとそこら辺に投げられ尻を打った。
「まったく……。もうすぐ授業始まんぞ?」
呆れたように溜め息を吐くこの生徒は、小野塚 誠 。赤茶の髪に茶色の猫目で身長は170後半、そして翔先輩の彼氏である。
誠は、僕が“せい”と漢字を読み間違えてからそうなってしまった。今じゃ彼のクラスメイトからも言われてしまってる。それに関してはすまなかったと思っている。決してわざとではないんだ。わかるね?
「じゃな、お邪魔したわ」と沙羅たん。
「空たんまた誘うねー」
沙羅たんに引きずられているのを気にせず、僕は手を振る。空たんは笑いながら返してくれた。
教室に着き、席に座る。
そういえば、質問無かったらどうなるんだろう。
……。ま、いっか。
「始めんぞー」
かったるそうな担任の声と共に授業が始まる。
「好きに質問するのはいいが、朝日は俺のだから告白とかは無しだからな」
スルーしかけたが、何か今不穏なことを仰いましたな?
「基樹<モトキ>! へんなこと言うなよなっ!」
そう言って赤らめあたふたするモジャモジャ。なんだろう、可愛くない。
そいえば担任の名前紹介してなかったね。
あいつは、山田 基樹 。自身は名字が嫌いらしいから、僕はあえて山田先生と呼ぼう。てか呼んでいる。
「質問無いのか? 無いなら普通に授業始めるぞ」
それは困る。
クラスメイトの考えが一致したようだ。「はい!」と藻武君が手を上げる。
「はい、メガネ」
あいつはクラス委員の名前も分からんのか。さすが顔がいい子だけにしか興味ないだけあんな。
「あの、質問なんですが…「オレ、それより歩に話があるんだよ!」
「ちょwあいつあなたのことを指さしてるぜ?www」
人を指さしちゃいけないって習わなかったのか?てか、委員の子憐れ……。
「……どんな手を使った?」と威圧的な担任。
「朝日をたぶらかさないでよね」と目が笑ってないサワヤカ。
その二つの視線をもらって僕結構ビビってる。怖いよ。ガチで。
ちょw理不尽www。
とか後ろから声が聞こえる。本当のことだけど、ごめん今は反応できないんだ。
「だって……だってあいつオレに……!」
「あいつらに近づかない方がいいよ。危ないし、あの子いろんな子と遊び回ってるんだから」
……はあ?
「そうなのか!? お前、ひどい奴だな! そんなことしたら、相手も傷つくしお前だって辛いだろ! やめろよそんなこと!」
怒りを通り越し呆れすぎて何も言えん。言い方ってもんがあるでしょうが。遊ぶって、純粋に遊んでるだけだからね。相手も傷つくだろうって、何。今現在僕が君に傷つけられているんですけど。
「ノノはそんなことしないよ」「てかあいつなんなの、ノノ達可哀相」「でも、沙羅君は中学生のことあるからもしかしたらノノも……」「それにノノの行動に勘違いする人いるんじゃ?」
ざわざわざわざわ。
……逃げたい。切実に。
だって、エセホストすら「あんなビッチに構わないで、俺のとこ来いよ」とか言ってるし。僕、まだ童貞だし処女だけど。やめろ言わせんな恥ずかしいだろ。
さすがにこんなに収拾つかないのはヤバい。
だけど、このままのカオスのまま授業終わってくれないかな、と同時に思う。
「皆の者静まれい!!」
突然、寛智が大声を出した。
さすがに僕も驚いたし、他の生徒も皆驚き黙ってしまった。寛智に皆を静める力があったとは。
「歩たん失礼なことを考えておるな?w」
何故分かったし。
「おいっぺ、転校生君に質問があります!」
静まったところに大きな声が響く。
「あなたはノンケですかい?」
……はい?
「え、えぇぇえぇぇぇ!?」
爆弾落とすな、寛智よ。
「ん、何だ? そのノンケって!」
知らないのかーピュアだなー(棒読み)
「君はホモかね?」
直球だなオイ。
「なあ、隆斗。ホモって何だー?」
「いいよ、君が知ることじゃない」
そう言って睨んでくるサワヤカ。うぜー。
「そうなのか? 分かった!」
素直に聞き入れる転校生もうぜー。
「おいっちからの質問は以上ぞよw」
「じゃあオレから質問なんだけどさ!」
マリモちゃんやかましー。僕教室出ようかな。
キーンコーンカーンコーン。
……あ、時間だ。
あやつ、何か言いかけていた気がするが、あまり気にしないことにしよう。
「これで授業終わりだ。次回宿題忘れんなよ」
宿題? 僕がやらないわけがないだろう。
「歩!」
フキツナコエガキコエマシタ。
「歩たん、逃げるおw」と隣にいつの間にか寛智が。
「早く行くぞ」といつの間にか沙羅たんは全員の授業道具を持っている。
わお、ふたりとも準備早いね。
「待て! 逃げるなよ!」
うわー追いかけてくる。
てかマリモ君足速ッ!? 沙羅と寛智はともかく僕は逃げ切れないっすよ。
「遅ぇよ」
片方の腕を、沙羅たんに掴まれたった。
……わーお。
足が浮いてる。浮いてるわーお。
そりゃね、学年最速に引っ張られたらこうなりますわな。
「ふぉおおおおおお!」
速い速い。これが音速の世界!
もじゃの声が遠くなっていきますぜ。
こうして僕は、沙羅たんのおかげであやつを撒けた。
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