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これが王道ですか - 4

………  どれくらい寝てただろうか。  僕は、騒がしい声で目が覚めた。  起き上がってみる。まだ頭がぼーっとしている。 「やっかましーな、何だよ」  隣の部屋からだ。何だろう。 「歩……?」  扉に近づこうとしたときに、誰かの声が聞こえた。 「沙羅たん?」 「あ、ああ」と頷く沙羅たんに抱きついた。 「あ、歩っ?」 「良かったーどこ行ってたんだよう、もう。心配したんだぞ?」  ぎゅうぎゅうと力強く抱き締めていたら、咳込まれてしまった。 「あ、ごめん」  思わず体を離すと、沙羅たんはかすかに笑う。 「ありがとう、心配してくれて」  その笑顔は本当に微かだったけど、心が温まるのを感じた。 「だーかーらー! オレは何もやってない! あいつらがやったんだ!」  ……コノコエキイタコトガアリマス。  空気読めよな、ほんと。 「マリモが何でここへ?」  ちょっと覗いてみよう、と僕は扉を少し開けて中を覗いてみる。 「何か問題を起こしたのかもしれねえな」  沙羅たんはすごく嫌そうな顔をしながらそう言って一緒に中を覗く。 「だーかーら! あいつが悪いんだ! オレは悪くない!」 「はぁ!? あんたが余計なことをしなければこんなことにはならなかったんだよ!」  何やら喧嘩しているらしい。  状況が読めない。沙羅たんは知ってるかな。 「静かに」  爽さんの声が聞こえた。決して大きな声ではないが、その威圧ある声に僕でさえビクリと震えた。  案の定二人は黙る。 「グラウンドにある石像を壊したのは誰だ?」 「……オレです」 「あ?」 「オレです! 新島朝日です!」  こえー……。爽さんが般若に見える。 「じゃあお前は怪我をしたのか? させられたのか?」と爽さんは続ける。 「させられました!」 「はあ? 先にやったのはそっち……ゴメンナサイ」  そして、あの宇宙人マリモを黙らせている。眼光だけで。  さすが風紀委員だけあるな。 「理由は?」と爽さんの静かな声。 「僕達は何もしてませっ! ……はい、すみません。嘘つきました」  やべー。さっきまでキャンキャン言ってた先輩?まで黙らせた。てか震えている。かわいそうに。同情じゃないけど。 「理由は?」  手元の紙にペンを走らせながらもう一度問う爽さん。  ちなみに言っとくけど、いるのは二人だけじゃないから。可愛い先輩は一人だけど、サワヤカと狼君と生徒会会長と副風紀委員長いるからね。誰も口を開いていないだけだからね。  その中でみんな黙らせている爽さん、まじパネェ。 「か、彼が生徒会のみなさまに近づいているからです。だから僕たち親衛隊は彼に警告しようと……」 「手は?」 「出していません。僕ともう二人で彼に警告しただけです」 「なるほど」  ふーん、なるほどね。話が見えてきた。 「オマエらが意味分からないこと言って! ……はい、すみません」  毎回黙らせる爽さんもすごいけど、毎回黙らせられるマリモも馬鹿だな。 「ま、表向き友好的に話し合いに行った結果、怪我をさせられた、と」  爽さんは書くのを止め、ペンを置く。 「その結果、話し合いが破綻した。それがそこの転校生による暴力行為、と」  紙に判子を押し、資料を揃える。 「3-A音無(おとなし)拓海(たくみ)は反省文を風紀に提出。1-A新島朝日は壊したものを弁償、及び反省文提出。以上」  裁判の判決みたいだな。 「はい、分かりました」  先輩は大人しくそれに従い、風紀室を出ていった。 「何でオレがそんなことしなくちゃいけないんだよ!」  しかし、マリモは案の定噛みついてきた。 「今日編入だが、異例は認めない」  もう出ていけ、と言いたげに爽さんは別の資料に目を通し始める。 「何やら、あいつの罰が軽いようだが?」 「公平な判断だ」  自信満々に抗議する生徒会長をも一刀両断。  「ああ、ついでにこの資料に目を通して。会長の印鑑が必要だ」とついでにお願いする始末。  ああ、爽さんが僕ら生徒側の味方で良かった……。 「オレは認めないからな! おじさんに言いつけてやる!」  何やら泣きながら風紀室を出ていったマリモ。追いかけるその他(笑)。 「2人ともこっちこい」  静かになった途端にそう言われ、ビクゥッ!と体を揺らす沙羅たん。僕以上に驚いてますな。  てか、知ってたのね。気づかれてたわ。  「は、ははは」と空笑いながら爽さんの元に近づく僕。その後ろをビクビクしながらついてくる沙羅。 「よく寝れたか?」  爽さん、それはどちらに聞いているのですか? 「うっす、おかげさまで。ありがとうございました」  取りあえず、自分に言っていると思い、そう返す。爽さんは目を細め、「そうか」と笑う。  か、カッケェエエエエエ! まじ爽△ですわ!  顔もカッコいいし中身も格好良いし、まさに完璧です。 「ほら、放課後だから見回り行ってきな」 「……はっ。そうだった!」  僕は風紀の腕章をつけ、敬礼をする。  説明してなかったけど、たまに風紀の仕事を手伝いしているんだ。ニット帽を許してもらう交換条件ってやつさ。 「行ってきます」 「いってらっしゃい」 「……歩」  風紀室を出ようとすると、沙羅たんに引き止められる。 「何?」 「……いってらっしゃい」  沙羅たんは言い淀み、そう告げる。  ……今の僕なら、沙羅のその顔の意味が分かるだろうか? 「いってきます」  いや、このときと僕は何も変わっていない。  だって、まだ2ヶ月だよ?  体育祭は来月だよ?  僕達、一応1年生だよ?  分かる訳、ないじゃないか。

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