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これが崩壊ですか - 4

……で、すぐに見失いました。ありがとうございます。  沙羅たんの性格的に人気のない森に行きそう。そんな気がする。  なんとなくの予想で森へと進んでいくと、すぐに人の声が聞こえた。  さすがにすぐ分かる。沙羅たんと爽さんだ。ビンゴだぜ。  静かに進んでいくと、二人の姿が見えた。意外と奥にいなかったな。てか、何で僕堂々と行かなかったんだ。知り合いなのにさあ。なんて自分にツッコミを入れる。 「お前、いい加減に周りに心配かけてるのに気づけ」  おそらく、爽さんが今まで聞いたことない声色だったからだよ。静かな声だけど、怖かった。 「歩のことか?」と、沙羅たんが僕の名を口にし、体が跳ねる。 「やあ、歩たん」  耳元から声が聞こえ、口から言葉に出来ない悲鳴が聞こえた。声が出なかったのは、口を塞がれたからだ。 「いやー修羅場ですかな?wwwww」  か、寛智じゃないか。何故ここに。 「俺は風紀委員だ。見回りしていて何が悪いんだよ」  会話が進んでいたようだ。沙羅の静かな声に、ビクリとする。沙羅たんの声も静かなのに、めちゃくちゃ怖い。  ……風紀委員?  あーそうだった沙羅たん風紀だったわ。ということは、すぐに見失ったのって、見回りに行ってたのね。  何よ何よ水臭いじゃない。僕にくらい一言言ってよー。 「一人で行動して何かあったらどうするかだって? 俺だって自分の身くらい守れるし、その術だってあんた達からたくさん学んだ」  沙羅たんの声は震えながらどんどん大きくなっていく。 「前回もそう言って危なかっただろ。翔にも言われたはずだ。もう心配するなという方がおかしいだろう」  爽さんの声色は呆れているのか怒っているのか。こちらからは後ろ姿だから声だけでは分からない。  ……情報量が多くて困る。  前にも何かあったのか? 何があったんだ? もしかして  沙羅たんは、ふ、と自嘲の笑みをこぼす。 「あんたが俺を心配?」 「……当たり前だろう」 「そんなに信用されてねーのか、俺って」  その言葉に爽さんの反論が一瞬詰まる。 「信用と心配は別物だ。ここはそういう学校なのを知ってるだろう?」 「分かってる」 「分かってないだろ?」 「分かってる!」  まるで、だだこねる弟を必死になだめる兄のような喧嘩だ。見ていて、何故か和む。  ……いや、本人達は本気で喧嘩しているのかもしれないけどね。 「何でそんなに構うんだよ! 俺が弟だからか?」  沙羅たんの言葉に思考が止まった。弟?  ……兄弟?  知らぬ間にフラグを立ててしまっていた。回収されましたね。  読者さんはこう思うだろう。フラグ乙。 「フラグ乙」  おい、隣の腐男子。心を読んだ上でにやけ声出すな。  シリアスブレーカーですな。このメガネ。  と、しばらく経ってこの状況を思い出すと、こう思えるのかもしれない。  だけど、この時の僕は動揺が隠せなかった。だって、二人が兄弟なんて知らなかったんだもん。  僕の情報処理が追いつかないまま、沙羅は続ける。 「それにさ、「恋人」なんて周りが勝手に付けたものだし、お互いそう思ってないだろ? だからさ」  沙羅たん、泣きそう。 「勘違いされるようなこと、やめろよ」 「沙羅っ!」  沙羅たんは、くるりと背を向けるともの凄い勢いで走り去ってしまった。爽さんの声が響く。  爽さんは追いかけようと一歩踏み出そうとするが、止め、こちらに向き直る。 「隠れているやつ、出てこい」  ひっ! 何!? バレてたの!?  出ようか出まいか迷いつつ、意を決して立ち上がる。「え、えへへ」と薄ら笑いが出たことは皆さん目を瞑ってくださいな。 「野軒と高田か」  爽さんは、まるで最初から僕らがいたことを知っていた口ぶりだ。それじゃ、隠れることなんてなかったんじゃないの、僕ら。 「さっきの話は本当でおすか?wwwww」  おい、腐男子。僕が聞きたかったけど聞くのをためらったことを。 「本当だ」  あっさりと肯定されたことに、逆に驚いたわ。 「別に、バレたらバレたでいいやと思っていることだし。恋人っていうのも、先ほど沙羅が言った通り周りが勘違いしていたこと。それを俺は都合がいいと判断し肯定も否定しなかったことだから」  爽さんは、僕らを見ているようで見ていない。どこかぼんやりしている。笑っているけど笑っていない。  そんな、気がする。 「ま、あいつ腕章持ってるし大丈夫だろう」 「爽さんは!」  後で考えると、何でそんな質問したのか疑問に思ったよ。  帰ろうとした爽さんは顔だけこちらに振り向く。 「爽さんは、沙羅たんのこと好きなんですか?」  直球ストレート投球やなw、と、プークスクスする寛智の足を踏みつける。  爽さんは感情が読みにくい笑顔を浮かべた。 「さあ、どうだか」 ……… 「いやー驚きましたな!wwww」  せいからメールがきていたので体育館に戻ることにした。その帰り道の沈黙を打ち破ったの寛智。 「二人のこと?」  僕の質問に、プッと吹き出す。 「歩たんには教えなーいww」 「あん?」  若干、いや若干イラッとしたのだが、ゴホン、と咳払いをして「そういえばチャラ男のことどうする?」と何気なく質問してみた。 「寛智、チャラ男は嫌いなんだよ」 「…………ん?」  ボソッと、低い声が聞こえた。  思わず聞き返すと、パッ、といつもの笑顔に戻り 「わしが力になれるとは思えんのでの。辞退しようかな、と考えていたところじゃよwwww」 「何故にジジババ語」  なんだこいつ。チャラ男に嫌な思い出でもあったのかしら。  知りたいけど話したくなさそうだからまだ聞かないけどね。  僕は「分かった」と返し、ついでに伝えとくよ、とも言う。  体育館の裏側に着いたようだ。入り口には、そこにさっきまで話題に上っていたチャラ男がいた。何かを見ているようだ。 「チャラ男いるじゃん」  隣にいる寛智に声をかけると、さっきまでそこにいた寛智が消えていた。あいつどんだけ嫌いやねん。 「おっすチャラ男君」  肩を叩くと、ビク、と肩を震わせてからこちらに振り向く。 「沙羅っちのお友達じゃない」 「僕は歩。隣にいたふだ……メガネの子は寛智」  危ない危ない。腐男子というところだったわ。  今いない人物を紹介って、僕は頭のおかしいやつではないか! チャラ男は気にしてないようだけど。  てか、何となくだけど、こいつからチャラ男臭が薄れている気がする。気のせいか?  「何見てるの?」と聞くまでもなかった。 「だからお前らも止めろよな!」  ほーう。この聞き覚えのある声はマリモではないか。階段の上から聞こえる。 「そっちこそ、生徒会役員の皆様に無闇に近づくのは止めて。前の警告を無視した挙げ句僕らの後輩を傷つけた。今回も力で黙らせようっていうのなら許さないよ」  もう一人の声は静かだ。マリモが興奮しているので余計に冷静に見える。 「今度は何をしているんだ」  僕は階段を何段か上り、下から踊場の様子を見てみる。  マリモ一人に対し、前に風紀室で見た先輩とリーダーっぽい人の二人。  まーた問題を起こしそうな雰囲気です。 「お前らが勝手なこと言うからだろ!」 「僕達は先輩だよ。口の聞き方に気をつけな」  などと言い合っているがマリモは話を聞かず、そしてなかなか話がかみ合わない。  ……ここは風紀の出番だろうか。いや、まだ様子を見ておくべきか。 「何してんの?」 「録画してるのぉ」  僕の隣でさも当然のごとくハンディカメラを回しているチャラ男。何に使うんだそれは。 「発展するまで待ってねー風紀の野軒君ー」  証拠品にでもするつもりか、このチャラ男。読めねえな、全く。  しかし、親衛隊の方は実力行使をするつもりがないのか、なんとかマリモを説得している。しかし、当の本人はヒステリックに叫ぶだけ。なかなか発展などしない。  そろそろ僕飽きてきた。止めて良いかな……。  手すりに座りながら欠伸をする僕。隣のチャラ男はいつの間にか手にカメラを持っていなかった。 「カメラは?」 「あれ」  チャラ男が指差した先は、後ろの窓の縁らしい。ちょい待て、天井で見えんぞ。 「二階の窓に仕込みましたぁ。これで盗撮もバッチリっすよぉ」  自分で盗撮とか言ってるぜ、こいつ。 「何でお前ら分かってくれないんだよ!」  悲鳴と共にそんな叫び声が聞こえた。 「行くよ、野軒君」  チャラ男は、さっきとはおちゃらけた雰囲気と一変し凛とした声だった。 「ーーーっ! 痛っ!?」  階段をものすごい勢いで駆け上がったチャラ男は親衛隊とマリモの間に入った。マリモの突き出した拳を払いその腕を掴み後ろに回り羽交い締める。関節決まってますよね、あれ。 「野軒くぅん、ロープロープぅ」  慣れたような一連の動きに見とれていたが、ハッとして、いつも見回りで持っていた麻の紐をポケットから出し、渡す。 「あ、歩! 碧、お前も何するんだよッあいつらが訳わかんないこと言ってオレをハメたんだ! 歩はオレの味方だよな!」 「僕は風紀委員。風紀を乱す人を捕まえるのは当たり前のことだよ」  風紀委員じゃなくてお手伝いだけど。なんて心の中で呟く。  僕の名前を呼ぶんじゃない、と冷たい目で一瞥し、二人の親衛隊へ向き直る。 「先輩方も一緒に来てもらいます」  お怪我はありませんか、と尻餅をつきこちらを青い顔で見ている先輩へ手をさしのべる。 「君、風紀委員だったんだね」  先輩を引っ張り上げると、横から声が聞こえた。前に風紀室にいなかった人だ。 「僕は親衛隊総隊長の林舞<ハヤシ マイ>。助げてくれてあんがとう」  き、綺麗な人だな……。しかも、東北訛り。可愛いじゃないですか。 「最近あのマリモのせぇで親衛隊もピリピリしてっがら、迷惑してたんだず」  ちら、とチャラ男がマリモの口をタオルで縛り、電話しているところを見て、僕に向き直る。 「でも、ごしゃいて気を変えてもらおうと思ってたんだげっとも……」  あの……僕東北訛り分かりません。へへ、と笑ってごまかした。 「おそらく、あのちゃら……碧が委員長に連絡してくれてると思うので、先に風紀室へ行ってください。手当てもしてくれると思いますから。僕らはこの場を片付けます」 「あの委員長は人聞きがいいから、安心だ」  ありがとう、とそう言って、泣きそうになっている先輩を連れてこの場を離れた。  それを見送って、ふう、と脱力する。 「君、こういうのに慣れてたんだな」  未だに騒ぎ立てるマリモを無視し、電話が終わったチャラ男に話しかける。 「まあねぇ、職業柄必要だったしぃ」  お前の職業学生だろ。 「そういえばノノっちさ、俺の名前さっき呼んでくれたじゃん?もう一回呼んでよぉ」  ノノっちてなんだノノっちて。  僕は、後ろ向きで毬藻をいじりながらそう言うチャラ男に近づく。 「何で」 「だってぇ、ノノっち俺の名前呼んでくれないじゃあん?」  てか、マリモに何してんの?  チャラ男の後ろからマリモを覗き込……うわ、こいつ香水の匂いがする。 「碧」  こいつそんな気にしてんのか、と普通に呼んで上げたら、ビク、と肩を震わせこちらに勢いよく振り向いた。 「痛っ!!」  ガツ、て音しましたよ!!痛い!!  悲鳴を上げ、うずくまる。いたあい。涙出てきた。口に血の味が広がる。唇切れたわ。  ……あ。 「んもぅ、ノノっち意外と近かったのね……」  そう言って、口を抑えるチャラ男を見て、思考が停止した。  ……ん? チャラ男の口とぶつかったのか、僕。  ………………………………………。は? 「ファアアアァアアア!!!!」  ぼ、僕のファーストキスが………。  いや、待て待て待て分からないよ、まだキスかも分からないよ。  ほら、だってこれ事故じゃん? 何この少女漫画にありそうな展開! 「僕らは、キスをしていない。これは事故だ無効だ……」  ブツブツと、口に出ていたらしい。  不意に肩を置かれ、びくりとチャラ男を見る。 「チャラ……」  ……お?  お? お? おぉおおおお!?  ……………………僕、何でキスされてるんだ?  状況が分かった途端、ボッ、と顔に火がついたように熱くなった。 「チャラ……放し……っ」  口を開けたのがいけなかったんだろうか。舌がぬるっ、と入ってきてビックリして体が固まった。 「ふ、ぅ…んんぅ…………」  やめろ、と逃げる僕の舌をチャラ男の舌が絡まってきて。  ……これ以上考えるとヤバいので思考を切ります。エラーエラー。 「ん、んん、ぁ……」  頭が、ぼぅとしてきた……。  体を後ろに倒され、それでもなおキスは続く。そろそろヤバいからやめてほしい。いろいろと。

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