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5.
「お前がしたいことをしてやる。ただし、行為の回数が増えれば増えるほどオレの時間を増やしてしてもらうからな」
「それって⋯⋯ぼくが不利になる条件じゃん。そんな条件呑みたくないよ」
「じゃあ、この話はなかったことになるな」
「そんなぁ」
この話は終わりだと言わんばかりに、片付けた教科書を再度開いた。
が、開いたページにバンッと手を置いた。
「じゃあ、少なくてもいいからその代わりに『ミコ』って呼んで」
ミコ。
口の中で呟いた。
思い出されるのは、アラタスが攫われた時、あの教師が「ミコ」と気安く呼んでいたことに腹が立ったこと。
何故、そのような感情が湧き上がったのか未だに答えが見つかってない。
「フリグス、そのぐらいいいでしょ。フリグスの条件よりも優しいし」
「⋯⋯そう呼べば、回数を減らしてくれるんだな」
「うんっ、⋯⋯一応」
ぼそっと言ったと言葉にまだ納得してないのかと言いかけたが、これ以上返すのは面倒だと飲み込み、その代わりにこう言った。
「⋯⋯仕方ない。呑んでやる」
ため息混じりに返した。
これで一応はいいだろうと思っていると、「ありがとー!」と言って抱きついてきた。
大袈裟なぐらいに心臓が飛び上がった。
同時に周りがざわつく。
「急にそういうことをするな」
「なんで? 恋人だから普通のことをしただけだよ? もしかして、フリグス照れてる?」
「⋯⋯なわけないだろ」
「嘘だぁ、こんなにも心臓がドキドキしているのに」
そう言って、胸に耳を当ててくる。
「気安く触るな」
「別にこのぐらいいいでしょ。へへ、もう。素直じゃないフリグスも好きだよ」
不意に顔を上げたアラタスが無邪気に笑った顔を見せてくる。
頬が熱くなるのを感じる。
「フリグス、顔が赤いよ?」
「うっさい。いいから離れろ」
「えー? もう、しょうがないな」
ちぇと言いながら離れた。
だが、表情はどこか楽しげだった。
「今も触れ合うのも楽しいけど、放課後はもっとだもんね。楽しみにしてる!」
その場で飛び跳ねそうな足取りで去って行った。
「⋯⋯調子、狂うな⋯⋯」
次の授業を告げるチャイムが鳴る中、フリグスは頭を抱えていた。
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