4 / 18
第3話:神様の温度
「――『(株)スマイルレストラン 調理部 川村幸雄』……ユキオか」
オレはベッドの脇に座ったまま、部屋の中を見回した。
「ビックリするくらいなんもない部屋だな……ますます幸薄そうなんだけど」
ここは鼻血男の部屋だ。ポケットに入っていた社員証から住所を調べて運んできた。
古いアパートのワンルームの部屋はがらんとしていて、小さなテーブルとベッド、それに本棚代わりらしきカラーボックスくらいしかない。
カラーボックスの中に並んでいる本はどれも調理関係のものだった。
「こいつ、料理人かあ……」
ベッド脇に置かれたカラーボックスの上には、時計と一緒に古ぼけた写真立てが伏せて置かれている。
「う……」
写真立てに手を伸ばそうとした時、ベッドに転がしておいた家主がうめき声をあげて目を開けた。ぼんやりとした目は焦点が合っていない。
傷だらけの顔は、よく見るとなかなか男前のようだ。
「お~い、大丈夫? 水でも飲む?」
覗き込んで頬をぺちぺち叩くと、不意に手を掴まれた。
「おっ」
「……冷たい」
ユキオが小さく呟いた。
俺は神様だから、好きな時に実体化できる。けれど、死んでいるから体温はない。
ユキオの手はびっくりするほど熱かった。
久しぶりに生きてる人間の手に触れて、オレは何だか動揺してしまった。
ユキオはぼんやりと視線をめぐらせてオレを見た。
「……ハヤト?」
オレを誰かと間違えているらしい。
「いや、オレは……」
いきなり、ユキオが跳ね起きた。
反応する間もなく、ビックリするくらい強い力でしがみつくように抱きしめられる。
「うわっ!?」
「ハヤト、ごめん。俺……」
慌てて引きはがそうとしたオレは手を止めた。
その声があんまり切羽詰まって、苦しそうだったからだ。
「ごめんな。俺が悪かった、ごめん……」
何となく黙り込んでいると、ぼんやりしていたユキオの目が不意にハッと見開かれた。
「……って、え!? 誰だお前!?」
ともだちにシェアしよう!