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第4話:押しに弱い性格
「……って、え!? 誰だお前!?」
ユキオは飛び退り、途端に体を折って呻いた。
「あイテテテッ……」
「あー、いきなり動くと辛いよ。アンタ昨日の夜、酔っぱらいにボコられたらしいから」
「え?」
「で、オレがアンタをここまで運んだの」
「……お前が?」
ユキオは顔をしかめながらこちらを見た。
オレはどっちかというと小柄な方で、ヒョロくてその上金髪だ。髪の色は関係ないけど、結構な大男のユキオを運べるようには見えないのだろう。
オレは肩をすくめた。
「アンタいつまで経っても起きないからさ。様子見ようとしたらいきなり抱き着かれるし、そのまま押し倒されるかと思ったよ」
怒るかなと思ったが、ユキオはかっと頬を赤らめた。
「そ……そんなことするわけないだろ! 男同士なのにっ!」
「マジに受け取んなって、冗談だよ」
オレはベッドに頬杖をつきながらじっとユキオを見た。
「あ……ありがとう」
ユキオは視線を泳がせながら小さく頭を下げた。けっこう几帳面な性格らしい。
「お礼はいーよ。オレ、コウ。アンタは?」
「あ、川村……幸雄」
「ユキオな、よろしく」
面食らったまま頷いたユキオは、ハッとして辺りを見回した。
枕元の時計に目を留めると、慌てて立ち上がる。
「え、朝……ヤバい、もう六時!? 遅刻するっ……!」
「こんな早くから仕事あんの? 今日、土曜だけど」
「ある!」
ドタバタと部屋の中を走り回るユキオを、オレは呆れ半分で眺めた。
「からだ痛くないの? 今日は休めば」
「これくらいで休めるわけないだろ! 責任があるんだよ!」
うわっ、根本的にオレと違う人種だ。責任なんて、オレの人生には存在しない単語。
「あ、あれ? 財布……てか、鞄がない!?」
「アンタ、昨日オレが見た時には手ぶらだったよ」
オレの言葉にユキオはぎょっとしたように振り返った。
これはオレの能力のせいだろうか? 出会う前の出来事だから、ノーカンのはずだけど。
「そ、そんな……全財産入ってたのに」
オレはあくびした。何だか眠たくなってきた。
「アンタ、給料日いつ?」
ひたすらオロオロしているユキオに尋ねる。
「え? に、二週間後」
「あっそ」
オレは尻ポケットに突っ込んだままだった自分の財布を取り出してユキオに放った。
「中の金、使っていーよ」
どこから出ているのか知らないが、一応貧乏神としての給料ってやつを時々ルーサーが持ってくる。と言っても、死んでるから特に使い道もないため、金はわりと溜まっていた。
ユキオは反射的に受け取った財布とオレを交互に見比べた。
「……ええ!?」
「二週間くらいならもつんじゃない?」
「って、そんなの受け取れないぞっ!」
「いーからいーから。滞在費だとでも思って」
「た、滞在費!?」
オレは空いたベッドにさっさともぐりこんだ。
「オレ、しばらくここに住むから」
ユキオの顎がガクンと落ちた。
「は!?」
「あ、飯とかはいらねーから、お気遣いなく」
オレは死んでいるから、食べなくても特に腹は減らない。
「ちょっとお前、なに……」
「お前じゃなくてコウだって。とりあえず、アンタが帰ってくるまで、大人しく寝てっから」
「いや、あの……」
「行ってらっしゃい」
何か言おうとしたユキオに、オレはひらひらっと手を振って見せた。
ユキオはパクパクと口を開け閉めして、時計をもう一度見るとさらに焦った顔になって飛び出していった。
「イレギュラーと押しに弱いタイプだな~ユキオ。新聞とかたくさん取ってそう」
オレはもう一度あくびした。
神様で死人のオレは寝る必要なんて全然ないんだけど、何故かすごく眠くなってきた。
ベッドに残っているユキオのぬくもりのせいかもしれない。
「さて、どうやってユキオを幸せにしたらいいんだろ……」
オレは考えながら、うとうとと眠りに落ちた。
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