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第10話:気合が抜けると透ける体質

「遅くなった……おい、いるのか」  ユキオの声に、ベッドにもたれていたオレは意識を引き戻された。  どうやら随分ぼうっとしていたようだ。普段全然頭を使わないから、たまに考え込むとオーバーヒートしてしまう。  部屋に入ってきたユキオはきょろきょろと辺りを見回した。オレがいるはずの場所を視線が素通りする。 「何だアイツ、どこに行ったんだ。……トイレか?」  しまった。  あんまりぼーっとしてたせいで、実体化が解けていたようだ。オレはユキオがトイレを覗き込んでいるうちに、ぐっと体に気合を入れて実体化した。 「おかえり、ユキオ」  声をかけると、ユキオは驚いたように振り向いた。 「あれ? お前、どこにいたんだよ」 「ユキオ」  オレは立ち上がって、カラーケースの上の写真立てを手に取った。 「オレって、ハヤトに似てる?」  ユキオがピタリと動きを止めた。  写真立ての中では、今より随分若いユキオが笑みを浮かべて写っている。  その隣には、同じ年頃の男がユキオと肩を組んで立っていた。 「こいつだよな、ハヤトって。 五年前に事故で亡くなった、アンタの幼馴染」  振り返ると、ユキオがオレを凝視していた。  その顔には驚愕の表情が張り付いている。 「……なっ、なんで、その名前」 「前にさ、アンタがオレをその名前で呼んだんだよ。気にはなってたんだけど」  オレは写真立ての中のハヤトを指でつついた。 「ハヤトのかーちゃんが来たんだよ、昼間。オレを見てびっくりしてた」  ユキオはふらりとよろめいた。額に冷や汗がにじんでいる。 「――な……何の用でここに?」  声は酷く掠れていた。  オレはユキオに歩み寄ると、分厚い封筒を目の前に置いた。 「コレ、返して欲しいって預かった。……アンタが事故の後からずっと送ってる金」  ユキオは封筒を見つめたまま震えていた。 「ハヤトのことはもう忘れて、自分のために使ってください……だってさ」 「そんな」  ユキオは呻いた。 「そんなこと……出来ない。俺のせいなんだ。俺のせいで、あいつは」 「何でユキオのせいなの?」  オレはユキオの腕に触れた。  ユキオの肩が跳ねる。 「警戒しなくても、もうキスとかしないって。――オレ、アンタから何があったか聞きたい」  ユキオはオレを見た。酷い怪我をした犬のような目だ。  痛くて痛くてたまらない、と心の奥で叫んでいるのが分かった。 「何でそんなに俺に踏み込んでくるんだよ、お前……。 ほんとに、やめてくれよ……」 「やめない」  オレはきっぱり言った。 「前も言ったろ? オレはアンタを幸せにしなきゃいけないんだ」  ユキオの瞳が大きく揺れた。ふっ、と俺から逸れて床を見つめる。 「――寝坊したんだ」  ユキオは小さく話し始めた。

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