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第12話:好きな奴としかしない
地元の駅から電車で一時間半。着いた駅でレンタカーを借りて、ドライブして名所を回って温泉と食事がウリの旅館に泊まる。
五年前に計画していたプランそのままの旅行に、ユキオは意外なほど素直について来た。オレ達は綺麗な景色を眺めたり、寺に寄ってみたりガイドブックに載っている土産物屋を冷かしたりして回った。
宿の食事は確かに、値段のわりにびっくりするほど豪華で、風呂は源泉かけ流しの大きな露天風呂だった。
ハヤトが選んだ宿だ、とユキオは小さく言った。
快晴だった天気は、夕食を食べている頃から雨に変わり、深夜過ぎには土砂降りになっていた。
「――ありがとな」
並べて敷かれた布団に寝そべって雨の音を聞いていると、寝たと思っていたユキオが不意にぽつりと呟いた。
「え? なにが」
「いきなり旅行なんて言い出したときは、何言ってんだコイツって思ったけど……」
ユキオは体を起こしてオレを見た。暗闇の中でシルエットがぼんやり浮かび上がる。
「……楽しかったよ。来てよかった」
オレも起き上がってあぐらをかいた。
「まだ終わってないんじゃないの」
「え?」
「告白して、それから何がしたかった?」
雨の音が部屋にざあざあと響いている。
「――代わりだって言ったろ。アンタがしたいこと全部、付き合うよ」
ユキオがぎょっとしたように身を揺らした。
「――簡単に……そういうことを言うな」
「簡単に言ってるつもり、ねーけど」
ユキオのシルエットはしばらく黙っていた。
それから、布団に手をついて、ためらいがちにこちらへからだを傾がせた。
オレ達は暗闇が邪魔しない距離で見つめ合った。
「お前はハヤトとは違う。……代わりにはならない」
「そっか」
何となく予想はしていた答えだった。
「まあ、アンタには難しいよな。他の男を好きな奴代わりに抱くなんて――」
言いかけたオレの肩を掴み、ユキオは不器用に唇を重ねてきた。
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