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第14話:死人に勝つ方法
「……ホントに大丈夫か?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
心配そうにチラチラとこちらを伺うユキオに、オレは手を振って見せた。
「オレのことより前見て運転しなよ」
「あ、ああ」
ユキオが運転する車は、ぐるりと山をらせん状に巻いている山道を走っていた。
昨日の夜から降り続いていた雨は、朝になっても強さを増して降り続いている。
一夜明けた今日もあちこちを見て回る予定だったけれど、豪雨のせいで電車が止まるとまずいので、オレ達は午前中のうちに宿を出て駅に向かっていた。
死んでいるので当然免許なんて持ってないオレはだらしなく助手席に座り、窓を流れ落ちる滝みたいな雨を眺めていた。
結局、朝になるまでユキオはオレを求め続けた。寝不足と疲労で身体はガタガタだ。
ハンドルを握ったまま、ユキオがまたこちらをちらっと見た。気まずさと恥ずかしさがない交ぜになったような複雑な顔になっている。
「……俺、初めてでその……加減とか分かんなくて、ごめん」
オレは思わず噴き出した。
「わっ、笑うなよ!?」
「笑うでしょ今のは。いーんだよ、めっちゃ気持ちよかった。アンタは?」
ユキオは真っ赤になってもごもご呟きながら視線をそらした。
一旦実体化を解けば、肉体のダメージはリセットされる。
それは分かっていたけど、オレは身体に残ったけだるい余韻を楽しんでいた。
酷く満ち足りた気分なのに、ずっと胸の奥がうずいている。
こんな気持ちになったことは、生きていた頃にも記憶がない。
少し残念なのは、どうやらまだテストに合格していないことだった。
ユキオはまだ心からの幸せを感じてはいないらしい。
やっぱり、ユキオに心から幸せを感じさせられるのはハヤトだけなんだろうか。
死人に勝つのは難しい。
まあ、オレも死人だけど。
「……なあ」
色々と考えていると、ユキオがぎこちなく声をかけてきた。
「お前のこと、聞かせてくれないか」
「オレのこと?」
「歳とか……家族とか、今まで何して来たか、とか」
オレは唐突な話題にまじまじとユキオを見た。
「え? もしかして、まだオレのこと疑ってんの?」
「違う。知りたいんだ、お前のこと」
「何でよ」
ユキオの耳が赤い。
「……いいから話せよ。お前ばっかり俺のこと知ってるなんてずるいぞ、コウ」
ぞくっとした。
ユキオから名前を呼ばれるのは初めてだ。
「もう一回呼んでよ、オレのこと」
ユキオは少し黙ってから、ちらりとこちらを見た。
「……コウ」
また、ぞくぞくと電気みたいな刺激が背筋を駆け下りた。
何だコレ。名前呼ばれてるだけなのに、スゲー気持ちいい。
あれだけヤったのに、不思議なくらい欲情してくる。
「分かった。話すよ」
どこまで話すか少し考えて、オレは全部話すことにした。
隠し事なんか趣味じゃない。
「オレ、死んでるんだ」
ユキオは怪訝そうな顔になった。
「それは……比喩か何かか?」
「いやそのまんまの意味。一年前に胸の真ん中撃たれて死んだの、オレ」
アレは本当に痛かった。
「で、死んだときにスカウトされてさ。神様になれって言われて、即答でなったんだよね」
「おい、ふざけるなよ」
ユキオがとがった声を出す。オレは肩をすくめた。
「イヤ、マジだよ。オレの身体スゲー冷たいっしょ?」
「いい加減に……」
ユキオが声を荒げた時、雨音に混じって不意に何かが爆発でもしたかのような低い轟音が車ごと地面を揺らした。
「えっ」
声を漏らした瞬間、重低音が上から降ってきた。
耳を痺れさせるような衝突音と共にガクンと激しく揺さぶられ、世界がひっくり返る。
「あっ……!!?」
ユキオの叫び声、一瞬の浮遊感。
次にものすごい衝撃が襲い掛かってきてオレの意識は断ち切られた。
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