8 / 25

第8話 指先がふれた、放課後の静寂

放課後の教室。 カーテンが少し揺れていて、光が机に斜めに落ちていた。 悠馬は、まだ席に残っていた。 蓮も、同じく──机にノートを広げて座っている。 ふたりだけの静かな空間。 誰も話しかけてこない。話しかけさせない空気。 ⸻ 「……今日、帰らないの?」 悠馬が尋ねると、蓮は首を小さく振った。 「少しだけ、この時間が好きで…… 誰もいない教室って、安心するんだ」 「……ぼくも。 蓮くんがいるなら、ずっとここにいてもいいと思う」 ⸻ ふと、蓮のノートがめくられ、 そこには昨日と同じ──小さな風景画が描かれていた。 悠馬は、その中の人物に気づく。 「それ……ぼく?」 蓮は驚いたように、そして、少し照れながらうなずいた。 「……無意識に、描いちゃってたみたい」 ⸻ 悠馬の指が、そっとノートにふれる。 その瞬間、蓮の指と重なった。 一拍、心臓が止まった気がした。 「……ごめん」 「……いいよ」 ⸻ ふたりの指先は、すぐに離れなかった。 それが言葉よりも確かな答えだと、 お互いに、なんとなく感じていたから。 ⸻ カーテンの向こうに、夕焼け色がにじんでいく。 ふたりの心も、静かに──赤く染まっていった。

ともだちにシェアしよう!