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第9話 名前を呼んでほしい

次の日の放課後。 ふたりはいつものように、教室に残っていた。 机にノートを広げるふりをしながら、 お互いの存在を意識しているのは、もう当たり前になっていた。 ⸻ 「ねぇ、悠馬くん」 蓮の方から話しかけてくるのは、まだ珍しかった。 「ん?」 「……名前、呼んでくれてうれしかった」 「え?」 「最初に、“蓮くん”って……言ってくれたとき。 ちょっと、ドキッとしたんだ」 ⸻ 悠馬は照れくさそうに笑って、少しだけ顔を伏せる。 「そっか…… じゃあ、これからも……呼んでもいい?」 「うん」 蓮の声は、いつもよりほんの少しだけ明るくて── それが、悠馬の胸を強く揺らした。 ⸻ 「じゃあ、蓮。……今日も、一緒に帰ろっか」 「……うん、悠馬」 ⸻ “悠馬” 初めて呼ばれたその声は、 思っていたよりも優しくて、温かかった。 ⸻ ふたりが教室を出たとき、 すれ違うクラスメイトたちがひとり、ふたりとふり返っていた。 けれど、ふたりはそれに気づかないふりをした。 ただ、名前を呼び合えたことが、 それだけで十分すぎるくらい──嬉しかった。

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