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洗脳とマインドコントロール
「本当に専門ではないので詳しくはあれですけれど、洗脳やマインドコントロールは、似て非なるものと言いますか…ほんとのことは専門家に聞いてほしいんですが、洗脳は確か本によれば『強制力を強いて思想や主義を変えてゆく』的なもので、暴力や言葉の暴力等で人に思い込ませてしまう感じなんです。マインドコントロールは、また本からで申し訳ないですが『他者を言葉や態度、行動によって、本人の意思とは異なる方向へと誘導し、支配しようとする行為ですよね。洗脳とは異なり、物理的な強制力を使わずに、心理操作によって行われる』と言った感じでしょうか。本当に説明難しいですが。とにかく時間がかかるイメージが僕にはあります」
「なるほどなぁ…」
時臣は納得して聞いてるが、中条も唯希も専門外の知識をたまたま読んだ本の一節で今読んでるかのように言う典孝にびっくりしている。
「結構時間かけてじっくりとやらないと効果ないものなんですよね。サブリミナルのようなものだと、瞬時にかかって瞬時に終わる感じじゃないですか。ああ言う感じではなさそうですしね」
サブリミナル…聞いたことがあった。今典孝が言ったように、映像を見ている人にコンマ何秒かのコーラの映像を何度か挟み込んだら、コーラの売り上げが伸びたというやつだ。
「でも考え方はマンドコントロール に近いよな」
「ええ、そうなんですけどね…でも自分を追い込むまでにコントロールするには期間が短いです。もっと幼少期からじっくり仕上げてくるとか、何年もかけてとかではないと、ボスや対象の人をそこまで怖がるのは僕は無理だと思いますよ。その子の過去に何かあればまあ少しは違うかもしれませんが…」
3人が顔を見合わせた。
「過去?」
唯希の問いに
「はい、例えば過去に誘拐されそうになって助かった事があるとか、そういう事件性の事案があって、本人の中にトラウマが植わつかってたりすると、そこを突いてまあボスの顔を何度も見せてこいつが犯人とか教え込めばまあ…時間短縮にもなるかなと…あ、これは素人考えです。専門の医師にきちんと聞いた方がいいです」
ーあ、そういえば…ー
中条が何か思いついたように呟いた。
「今のを聞いて思い出したけど」
「なんかあったのか」
「俺が確保した寺島くんは、小さい頃父親からのDVを受けてたんだよな。結構ひどい暴力だったらしく、母親は寺島くん…雄介くんというがその子と弟と一緒にシェルターに逃げ込むまでだったらしい…離婚するのも大変だったようでさ」
いま典孝が言った事には一致する。
時臣は自分の依頼者の過去は聞いてはいなかった。
「ボス、私今から依頼者全員と亡くなった猪野くんと瀬奈くんその他各ご家庭に連絡とってその辺を確認してみますね」
「頼むな唯希。それと典孝、その専門の医者って心当たりないか。そのマインドコントロールが解ける医者も居たらいいんだが」
「それを専門にしている人はなかなか居ませんが、それに詳しい医師 なら知っています。渡りつけますか?」
「できれば頼みたい。先生の都合に合わせるからと伝えて連絡とってみてくれないか」
「わかりました」
着たままだった膝丈コートのポケットからスマホを取り出し、連絡をとり始める。
中条も典孝の話を聞いてから、たまたま持ってきたバッグに入っていた依頼書で自分の依頼者へ連絡をとり、過去に何かあったかを調査し始めた。
ー過去のことまで思いもよらなかったな…ーパソコンに今までの話をまとめて書き入れながら、頭を整理する。
まずはなぜそれを行うか:不明
若い子のトラウマを弄って恐怖を煽るのはなぜか:不明
どうやってマインドコントロールをかけているか:不明
ー全部不明かよー内心毒づく。
わかっているのは誰かがそれを行って若者を傷つけ、それによって利益を得ているものがいるということ。
「若い子限定で傷をつけて何がしたいんだ…それによって得るものって…」
不思議と女子がいないのはなぜなんだと言う疑問も湧くが、それは唯希に『女の子は警戒心強いから、あまりそう言うどこかに集められる系は人が集まらないんじゃないか』
と言う事だった。わかる気はする。
暫く電話をかける声が室内に聞こえていたが、ここにいる時臣と中条の依頼分だけでも、時臣のところが8人中6人、中条のところの4人中3人が、過去に凄絶な苛めや、家族からのDV、男性からの痴漢等があった。
驚いたことに瀬奈に関しては幼少期に誘拐未遂に遭っており、その時の恐怖心はいまだに夢に見るほどだという。
「こんなに…」
電話をしながら取ったメモを並べると、やはり思惑はそこだった気がしてくる。
典孝も自分で言ってみたものの、それが本当に当たっていたことに驚きと少しの喜びを感じている顔をしていた。
そして、過去にそう言う経験がなかった時臣サイドの依頼者2人のうち1人が、先日時臣が尾行した吉田龍平だった。
「と言うことは、吉田龍平はこのマインドコントロールが効きにくいってことか。だから実家へ行けたと言うことなんだな」
ますます過去の出来事との関連が強まってきた。
この子から話を聞けないかな…時臣はぼんやりとそんな事を考えた。
「で、典孝の方は?」
「ポリクリでお世話になった精神科の先生に聞いてみましたら、上野で開業している『富山 先生』と言う精神科医がその辺に詳しいそうで、その方なら催眠術やマインドコントロールをいい意味でかける仕事をしている人を知っているみたいです。連絡先も聞いておきましたので、これどうぞ」〔※ポリクリ:医学部の学生が病院の各診療科をローテーションで回る臨床実習のこと〕
そう言って、その開業医の住所と電話番号が書かれたメモを渡してくれた。
「サンキュー。あとで話を聞いてみるわ」
いい意味でと言うのは、心が疲れて富山 先生のところに来る患者さんの程度を見て、ゆっくり時間をかけてやる気を引き出すマインドコントロール的なことをする施術もあるらしかった。
「いいように使えば、ためになることなんだな…」
俺にもやる気出させて欲しいなぁ…と、そう続けていう中条に
「お前は少し女性関係の規制をしてもらえ」
「え!中条 さんてそんな感じの人なの?」
隣に座っていた唯希がソファを一つ開けて座り直す。
「おい、人聞きの悪いこと言うな。女性にはいつでも誠実だよ俺は」
もう疑いを晴らさない気の唯希がジトっとみたあと、光のない目をパソコンへと戻した。
「唯希ちゃん!」
「ああ、俺は男なんで構わないでください」
時臣ですら久しぶりに聞く唯希の地声に、中条はビビり、時臣はーうわ出たわ、ひさしぶりーと笑い、典孝は興味なさそうにデスクへともう既に向いていた。
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