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本当の思い
川村は机に突っ伏したまま、しばらく荒い息を整えていた。
その肩が上下するたび、彼の疲弊と恥じらいが滲み出ている。
私は濡れた手をそっとティッシュで拭いながら、彼の背中に視線を落とした。
「……先生」
名前を呼ぶと、川村の肩が小さく跳ねる。
「な、なんだ……」
掠れた声で返す彼に、私はゆっくりと微笑んだ。
「かわいかったですよ。――必死に我慢してるのに、最後は素直になっちゃうところ」
「……っ、からかうな……」
机に顔を伏せたままの声は弱々しい。
けれど、彼の耳は真っ赤に染まり、否定しながらも褒め言葉を受け止めてしまっているのが
伝わる。
私は机に手をつき、彼の顔の近くへ身を乗り出した。
「ねえ先生。……まだ終わりじゃありませんよね?」
「……は?」
驚いたように顔を上げた彼の瞳は、熱と困惑に揺れていた。
「だって……“俺にもしてほしい”って言ったのは先生でしょう?」
唇を近づけ、囁くように告げる。
「触るだけで満足ですか? それとも――もっと、私に求めますか?」
川村の喉がごくりと鳴った。
その視線は迷いながらも、私の目から逸らせない。
「……っ、俺は……」
かすれる声で、彼は必死に言葉を探していた。
しかし、濡れた瞳と赤く染まった頬が、その答えを雄弁に語っている。
私は彼の顎をそっと指先で持ち上げ、目を合わせさせた。
「先生。……もっと素直に言ってみてください。何をしてほしいのか、ちゃんと」
沈黙が保健室に落ちる。
時計の秒針の音だけが響く中、川村はようやく観念したように息を吐き、低く震える声で言った。
「……もっと……お前に……気持ちよく、されたい……」
私は満足そうに微笑み、彼の唇に指先をそっとあてがった。
「いい子ですね。――じゃあ、今度は私が全部してあげます」
川村は机に突っ伏したまま、まだ熱の残る体を震わせていた。
私は彼の髪をそっと撫で、指先を唇にあてがったまま囁く。
「……でも、先生。今日はここまでにしておきましょうか」
「……えっ……?」
顔を上げた川村の目が驚きに揺れる。
私はわざと意地悪に微笑む。
「これ以上したら、先生ほんとに立ち直れなくなっちゃうでしょ?――続きは、また明日」
「ま、また……?」
川村は耳まで真っ赤にして、困惑と期待を入り混じらせた顔で固まる。
「そうです。明日、またちゃんとお願いしてください。そうしたら……今日よりもっと、してあげます」
私は鍵を開け、彼の腕にそっと触れて促した。
「……高瀬……お前、ほんと……」
川村はそれ以上言葉を続けられず、視線を落としたまま小さく息をつく。
私はその背中を見送りながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
――明日、彼はどんな顔でここに来るんだろう。
保健室に残った静けさの中で、私はひとり小さく笑った。
「ふふ……楽しみですね、先生」
次回、明日の8時公開
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