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6.
「姫宮さん、お食事の時間ですよ」
「⋯⋯⋯」
上半身を高くし、背を持たれる形でいた愛賀は看護師に一瞥することなく窓の外を見つめていた。
外はまだ寒そう。あの子は寒がってないだろうか。この手で暖めてあげたかった。
「姫宮さん、一口でもいいので食べてくださいね」
テーブルに置いた看護師が一言添えるが、愛賀は何も言わず見向きもしなかった。
僕は妊娠していたはず。
確かにこのお腹に大切に育てていたはず。
それなのに重みを感じられない。
誰が、誰が連れて行ったの。
「看護師さん」
「え、はい?」
「僕の赤ちゃん、知りませんか?」
「え、赤ちゃん⋯⋯は知りませんけど⋯⋯」
「嘘だ! 嘘だ! どこかに隠しているんでしょ! 返して!」
「きゃ⋯⋯っ!」
掴みかかった拍子に用意された食事がひっくり返り、つんざくような音を立てて床に飛び散るが気にも留めなかった。
「僕がオメガだから、子育てもまともに出来ないからって取り上げたの? でも、だからって、あまりにも酷いよ⋯⋯っ! 僕が産んだのにっ」
「止めて! 姫宮さん、止めて!」
悲鳴のような声を上げるが、愛賀は掴んでは離さず、強く揺さぶって「返して!」と声を荒らげた。
オメガだから何にも出来ない、ただ誰も構わず誘惑する淫乱な性別だと思われている。
それはずっと言われ続けた。だから自分もそう思い続けていた。けど、ベータだからってアルファだからって、子どもが出来たから当たり前に完璧に子育てが出来るっていうの。
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