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第5話
空気がもったりと湿り気をはらみ始めて、季節は六月に入った。
桜庭とのお付き合いは、依然として続いている。
「えー、男女分かれて、出場する種目を決めてくれ。体育祭役員―」
担任がそう言って、教室の右側に男子、左側に女子、が集まる。六月は第三週に体育祭がある。去年もそうだったけれど、俺は余っている種目でいいので、わいわいはしゃぐ男子の輪には入らず、遠目から観察する。つもりが、桜庭が寄ってきて、ゆる、と目を細めた。
「小山くん、なにに出る?」
「え、俺なんでもいいよ」
「じゃあ、僕と一緒にペアダンスに――」
「だめだめ、お前足速いだろ。リレーな」
委員の子が桜庭の首根っこをつかんで連れて行く。桜庭が不服そうに声をあげているが、相手にされていない。
そのまま、輪の外で傍観していると、だいたいの種目が決まってきたのであろう。こちらの声が飛んできた。
「小山~、お前、(姫野 と一緒に二人三脚でいい?」
「あ、うん」
返事を返すと、「決まりなー」と用紙に名前を書かれる。
「ちぇ~、小山くんと二人三脚、僕がしたかったのに」
輪の中から抜け出してきた桜庭がむうと口をとがらせる。
「桜庭はなにになったの?」
「リレーと騎馬戦と、ペアダンス」
結局ペアダンスは踊るのか。
「当たり前に無理だろ。身長差考えろ」
「ペアダンスが組めるのは女子とだしな」
百瀬が横から顔を出してきて、剣道も桜庭に突っ込む。
そうか、桜庭は、女子と、踊るのか。
そう思うと、胸がちく、と痛んだ気がして首をかしげる。
ふと、視線を感じて、顔をあげる。
俺と同じ、輪の外。
姫野凛 が、鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
背丈は、百六十前後だろう、俺と同じくらいの小柄な男子で、くりくりした目に、きれいにカールしたまつ毛。そこら辺の女子よりよほどかわいいと、男子が噂していた。
その、姫野凛の視線が俺を鋭く射貫いている。
びりびりと肌で感じる、これは。敵対心だ。
なにか、気に障ることをしただろうか。覚えがない。
これから始まる体育祭準備が、早くも、波乱の展開を見せそうで、俺は頭を抱えた。
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