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第7話

「姫ちゃんお弁当ちっちゃ!」 「普通だよ。ていうか姫ちゃんて呼ぶのやめろ!」 「えー、かわいくない? 姫ちゃん」 「かわいくない!」 いつもの食堂にて、姫野と百瀬が攻防を繰り広げる。 「あ! おかず勝手にとるな!」 「百瀬、返してやれ」 「えー、冗談なのに」 剣道が間に入って、呆れた声をだす。なぜ、こんなことになっているのかというと、事態は数分前に遡る。 姫野は落ち着くまで横になっているようだったし、俺も今から授業にでるのもなんなので、四限目は保健室でサボることにした。 「……ふりょー」 「お互い様だろ」 姫野の横のベットに寝転んで、ポツポツと会話した。姫野は一年生のときから桜庭が好きだったこと。今年同じクラスになれて運命を感じたこと。でも、男だから見てることしかできなかったこと。 一応お試しとはいえ、桜庭と付き合っている身としては気持ちのいい会話ではなかったが、敵対されていた理由がわかってすっきりはした。 「だから……、小山と付き合い始めたって聞いて、それなら僕でもよかったじゃんって」 「それはそう思うぞ。俺も」 「お前って、」 姫野が何か言いかけたときにシャッとカーテンが開いた。 「小山くん大丈夫!? 怪我!?」 息を切らした桜庭が立っていた。 「四限に小山くんいないから、本当はすぐに来たかったんだけど、先生に止められて……」 遅れて、百瀬と剣道もやってくる。どうやら、四限の授業が終わったようだった。 「落ち着け、桜庭。俺が怪我したんじゃなくて、姫野が体調悪かったんだよ」 桜庭は俺の言葉をきいてようやく、姫野を認識したようで、隣を見て、「そっか、よかった……」と小さく呟いた。 「姫野くん、大丈夫?」 姫野は俯いていたが、桜庭にのぞきこまれて、顔をゆでダコのように赤くした。 「え、えと、だ、大丈夫、です……」 「ぶっ」 たどたどしく答えた姫野に百瀬が吹き出す。 「可愛いね、姫野くん。なるほどね〜?」 不敵な笑みを浮かべた百瀬に姫野が警戒するように身を引く。 「よし!じゃあ、今日は姫野ちゃんいれて、五人で昼食べよーよ!」 決まり!というふうに百瀬が手をたたく。 「え、え、ちょ、」 「はい、昼ごはんとってこよ〜」 自由人なのか百瀬はもう歩き出していて、剣道がため息を吐く。 「ごめんね、姫野くん。大丈夫?」 「え! えと、えと、大丈夫です……」 桜庭に尋ねられて再び顔を赤くした姫野に百瀬がニヤニヤ笑う。 「面白くなってきたね〜」 上機嫌で鼻歌を歌う百瀬に答える。いや、全然面白くないが。 食堂について、姫野の横を陣取った百瀬は新しいおもちゃを見つけたようにずっと姫野に絡んではニマニマ笑っている。姫野も最初はたじろいだように後退していたが、たんだん持ち前のつっけんどんな態度を全開で、百瀬に応戦するようになった。 「小山くん、ラスク食べる?」 弁当を食べ終わったらしい桜庭がそう聞いてくる。桜庭の家のラスクはパンの耳でできていて、シンプルな味付けがなかなか美味しい。きっと、元のパンが美味しいのだろう。 頷いて、ラスクを手にもらおうとしたらその手を握られて、代わりにラスクを口に放り込まれた。 サクッと子気味いい食感が広がって、じわじわ顔に熱が集まる。 「普通に渡せよ……」 「嫌だった?」 嫌じゃ、ない。仲がいいのか悪いのか小競り合っている百瀬と姫野はこちらに気づいていない。それをなだめる剣道も。 「今日、にぎやかだね」 桜庭が俺の手を解いてゆるゆると笑う。 「……うん」 にぎやか、だ。今までずっと一人で弁当を食べていた俺にとっては。 こんなのも、たまになら悪くないのかもしれない。そんな事を思いながら、二つ目のラスクには自分の手を伸ばした。

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