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第9話

真っ青な空に、飛行機雲が白い線を描いている。体育祭当日は快晴で迎えた。まるで、姫野の告白を後押ししているようだ。 「なにボーっとしてるんだよ。次出番だぞ。僕たち」 空を見上げて放心していると、隣に並んでいる姫野から声をかけられた。 「――続いての種目は二人三脚です」 アナウンスがなって、グラウンドに入場する。整列していると、琥珀色の瞳と目が合った。 目が合った桜庭が、グラウンドの外からふわ、と笑う。 がんばって。と口が動いたのが分かった。こんなに、人が多くても。桜庭はすぐに俺を見つける。そのことになぜだか、胸がきゅう、と締め付けられる。 パアン! スターターピストルがなって、姫野と呼吸を合わせる。 いちに、いちに。練習通りに足を動かす。結果は二位だった。桜庭を振り返ると、おつかれ。とまた彼は口パクで微笑んだ。 種目はどんどん進む。騎馬戦に乗った桜庭は三人からハチマキを奪うという活躍をみせ、剣道はぶっちぎりで、ハードル走に勝利する、という躍進ぶりだった。百瀬はというと、女子と日陰に座って完全に輪に溶け込んでいる。自分の出るペアダンスまで、サボる気らしい。 「小山くん」 騎馬戦を終えた桜庭が俺にかけよる。 「見ててくれた?」 無邪気な笑顔に、ドキ、と心臓が跳ねる。隣にいる姫野を見やって、「み、見てなかった」と答えた。 本当は、ずっと見てた。桜庭がたくさん人がいても俺を見つけるように、俺も無意識に、桜庭の姿を追ってしまう。この、気持ちの、名前は。 見ていなかった、と答えると桜庭は目に見えて落胆した。それからふわ、と俺に持っていたタオルをかけて、 「じゃあ、次、リレーは見てて。一位とるから」 と、宣言して走っていった。 「――続いての種目は男女混合リレーです」 アナウンスがなって、選手が入場する。 桜庭は、すぐにわかった。ゆるゆるした雰囲気が、真剣な顔つきに変わっていて、はっとする。 パアン! リレーがスタートして、一組は三位につけた。男子にバトンが渡って、四位まで落ちる。 次の女子までバトンが渡る。速い。ぐんぐん二人追い越して、二位に浮上したところで、あ、と声がもれた。女子の上体が大きく揺れて、崩れるように転ける。慌てて立ち上がって走るが、五位まで、順位は落ちてしまった。 バトンが、桜庭に、渡る。 思わず、両手を握りしめていた。頭にかかっているタオルから、桜庭の匂いがする。 桜庭は宣言しただけあって、ぐんぐん前にいる走者を抜かしていく。 あと三人、あと二人、あと一人。 隣にいた姫野が「桜庭くんがんばれ!」と声をはりあげた。 あと一人。がんばれ。がんばれ。 「……桜庭!」 タオルをグッと握りしめた。 「がんばれ!」 桜庭の視線がこちらを向く。 カチ、と目が合って、真剣な顔をした彼がさらにスピードをあげた。 あと一人、追い抜いて、――。 ゴールテープが切られる。 「――二年一組!大逆転の一位です!」 桜庭がこちらに向かって、おおきくピースした。 心臓が、バクバクなる。 この、気持ちは。 タオルで顔を隠すと、桜庭の匂いに包まれて、なぜだか、たまらなく嬉しくて、口角があがった。

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