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第11話
集合がかかって、整列して、午後の競技が始まる。午後の競技は玉入れ、綱引き、最後にペアダンス、と緩いスケジュールだ。
誰にも会いたくなくて、昇降口に座っていると隣に誰かが腰かけた。
「姫野……」
「探したんだけど。なんでこんなとこいるんだよ」
姫野にじとっとした目を向けられる。はっとした。目が赤い。
「……振られた」
ズバッと本題からはいる潔さに姫野らしいな、と思う。
「慰めとかいらないからね、本当に」
なんと言っていいか分からずまごついていると、姫野の方から牽制される。
「……お前だからだってさ」
「え?」
「小山くんだから、付き合ってるんだって言われたよ」
ぶわ、と胸の奥が熱くなり、全身がその言葉に揺さぶられる。
俺、だから。
「嬉しいって思ったでしょ。いま」
図星をつかれて、押し黙る。
嬉しいと、思った。姫野が振られたのに、その事実に喜んでる自分がいる。
「――続いては二年生によります、ペアダンスです」
アナウンスが入って、姫野が立ち上がる。
「いこ。ぐじぐじどっちつかず男はこんな所で油売ってないでさ」
「……それ、俺のことか?」
「他にだれがいるんだよ? あのさ」
姫野がパンパン、と砂をはたいて、こちらを向く。
「この僕が振られたからには、絶対ぽっと出の女なんかに盗られないでよ。桜庭くんの恋人はお前じゃないと許さないから。――朔」
目を瞬く。下の、名前。いつぶりだろう、同級生から呼ばれるの。
姫野に手を引かれて無理やり立たされる。ぐいぐい引っ張ってくる姫野に心が熱くなる。なっても、いいのだろうか。姫野だったら、なれるのだろうか。
友だち、に。
淡い期待が立ち上ってきて、首をぶんぶん振る。
――お前を友達として見たこととか一度もねえよ。
古い、記憶が呼び起こされて、頭が一気に冷える。でも。あれは、昔で。
自分が今手を繋いでいるのは、きっと、未来だ。
姫野の手は小さくて、でも温かかった。
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