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第15話(side姫野)
軽薄、女たらし、チャラい、うるさい、めんどくさい。百瀬に対する始めの総評はそんなもので、できれば、関わりたくないと思っていた。
一緒にいるふたりも一緒。きっと、僕たちのことなんか眼中にもはいっていない。
ただの偏見でも、妬みでもあった。
だから、桜庭湊が声をかけてきてくれたとき心臓がうるさいくらい跳ねた。
「持とうか?」
体育委員になったのは、体育が好きだからとかじゃなくて、風邪で学校を休んだ日に勝手に決められていたからだった。
いつも、体育で使った備品を僕一人で片付けなくてはならず、重労働なのに、目立たない立ち位置の役割だった。
ハードルをひとつずつ持って、片付けていたところに声をかけられた。
ふわふわしたミルクティー色の髪の毛。長いまつ毛からのぞく琥珀色の瞳に僕が映っている。
「え、えっと、」
答えられないでいると、ひょい、と、手に持っていたハードルを取り上げられた。
「一人じゃ大変でしょ」
こんな、地味な作業に、たった一人、気づいてくれたのがあの桜庭湊であった。好きになる理由はそれだけで十分だった。
「泣き虫どーこだ!」
後ろから声をかけられて、肩がはねる。桜庭くんの瞳に自分は映っていない。振られるのはわかっていた。階段に座って涙をふいていると、百瀬が隣に腰掛けた。
「……わざわざからかいに来たの?暇人」
「んー?姫ちゃんをからかったことなんて一度もないけど?」
「嘘ばっかり」
「ほんとほんと、真面目が服きて歩いてるのが俺様さ」
「なにそれ」
「あ、やっと笑った」
百瀬が、優しい顔して、僕の頭をポン、の撫でた。
「泣いていいよ。姫ちゃん頑張ったじゃん」
「……泣いて欲しいのか、笑ってほしいのかどっちだよ」
柄にもなく優しく頭を撫でる、百瀬の手が暖かくて、涙がこみあげた。
「……小山だから付き合ってるんだって」
言うつもりはなかったのに、言葉がこぼれ落ちた。
僕じゃ、ダメなんだって。
百瀬が、優しく笑った気配がした。
「でも、俺は姫ちゃんの方が可愛いと思うけどな~」
突如投下された爆弾に目を見開く。
「ま、また、そうやって、バカに、」
「してないよ」
はっとする。百瀬が柔らかく笑う。
「バカに、してないよ」
空気が揺れる。じゃあ、本当に、この人は。
「あは、顔あか。元気出た?」
百瀬が僕の顔を覗き込む。
「ペアダンス、見に来てよ。とっておきのファンサするからさ」
「……なんだそれ」
なんでだろう、百瀬の顔が上手く見れなくて、視線を外しながら答えた。
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