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第15章

仕事帰り、運転手の鎌田に送って貰うと、菊池和弥は今加幹のマンションの前で待っていた。 もう既に夜10時を過ぎた今、迷惑かと心配になったが、一目でもいいから会いたいという気持ちに負けてしまった。 しかし、貰った合鍵を忘れた上、当の幹は不在で、電話にも繋がらない。夜勤とは聞いていないので、もしかして緊急患者の対応かもしれない。 夜空を見上げると、月がひっそりと雲から顔を覗かせている。 それから、結局、和弥は1時間半も冷たい空気の中、幹を待っていた。鼻水をズウズウさせ、何度も腕時計を見る。後10分待って、後5分待って……そう思っている内に、もう深夜0時近くまでなってしまった。 今日は会えないのか、がっかりしたが、諦めが悪い和弥は最後に電話をかけることにした。どれだけ待っても、やはり幹は出ない。 落胆を隠し切れない和弥が電話を切ろうとした時、どころからか、スマホの着信音が聞えた。和弥は電話を切らずに辺りを見渡すと、前方の薄暗闇から長身の影が見えた。 静かな住宅街に響くスマホの着信音が、徐々に大きくなる。近付く足音も聞えるようになった。和弥が電話を切ると、着信音も止む。 間違いない、幹だ。 「幹!遅かっ───」 会える嬉しさに、和弥は相手を確認せずに駆け寄ったが、直ぐに表情を強張らせることになった。そこにいたのは、待っていた幹ではなく、髪と服を乱した幼馴染みの片岡秀だった。 「なんで、お前がここにいるんだよ」 不機嫌な表情で言いかけて、ふと、秀の異変に気が着いた。暗闇で気が付かなかったが、秀の顔色が悪い。更に、幼馴染みは小刻みに震えていた。 「……どうした?」 こちらがイラつくほど、普段は余裕綽々たる態度の幼馴染みではない。心配になって一歩と前に出ると、和弥は眉間に皺を寄せた。 秀の服装は、赤黒いの液体……血───? 目を見開いた和弥は、怒鳴りつけるように秀の肩を掴んだ。 「おいっ!お前、怪我しているんじゃないのか?大丈夫かっ!?」 半端の量じゃない。まるで血の雨を浴びたような、想像を絶する量の血痕。 目視すると、秀はどこも怪我をしていなかった。つまり、誰かの返り血を浴びたことになる。だが、どれだけ問い詰めても、秀は焦点の合っていない目のまま、茫然としていた。 「おいっ!しっかりしろよっ」 激しく肩を揺らした時、カタッと何かが地面に落ちた。和弥は震える指で、それを拾う。 幹に渡したスマホ 一瞬、心臓が凍った。 「…な、なんで、お前が幹のスマホを持っているんだよ」 秀の襟元を掴み挙げると、和弥は物凄い剣幕で怒鳴った。 「幹に何をしたっ!?」 狂ったように揺らし、腹の底から喝破するが、秀は力が抜けた人形のように、何も反応しない。視線も合わせようとしない。 「幹に何をしたと言っているんだよっ!秀───っ!!」 和弥の理性が切れた。獣のような声を出すと、和弥は秀に襲い掛かる。地面に倒れた秀に乗りかかって、手加減なしに一発、殴りつけた。 「言え!言えよっ!!幹に何をしたか、言えよ───っ!」 もう和弥は冷静さを保てない。和弥が拳を高く振り上げた時、初めて、秀が視線を和弥に合わせた。感情が篭っていない眼差し。 「……お前の為に、あいつの顔を引き裂いてやった」 告げられた言葉が、上手く飲み込めない。息を詰めた和弥は、千切れんばかりに目を見開いた。 「もう死んでいるかもしれないけどな」 異常者のような暗い笑みを浮かべるが、秀の瞳孔は開いたままだ。 全身、赤黒い血に染まった幼馴染み。 ───誰の血だ? 連絡が取れない幹。 ───どうしてなんだ? 戻ってこない幹。 ───どこにいるんだ? 『もう死んでいるかもしれないけどな』 次の瞬間、和弥は喉が壊れるほどの悲鳴をあげた。血声を絞る絶叫。 「わああああああああああああ───!!」 血が逆流して頭が沸騰する。細胞ひとつひとつが爆発する。和弥は狂ったように秀に殴りかかった。 「殺してやるっ!殺してやるぞ!殺してやるぞっ!!秀ぇぇぇぇ───っ!!」 何で、何でこんなことになるんだ。なんで、何で、幹だけが───! 理性も秩序も、全て消えた。拳が潰れ、血が滲みでても、幼馴染みを殴り続けた。秀が呻き、声を出しても止まらない。 整っていた秀の顔が、アッという間に無残な姿に変わる。血に染まった秀がぐったりとした時、和弥は秀のポケットからはみ出したナイフを握り締めた。 生々しい血痕が残る、そのナイフを見た時、和弥の中の情が全て吹っ飛ぶ。震える腕で、ナイフを高く振り上げた。 「………か…ず…や」 虚ろに名を呼ぶ秀に、和弥はピクッと腕を止めた。 「…なあ……なんでだよ。なん…で、あいつなんだよ」 晴れ上がった瞼に隠れる瞳に、涙が浮かんだ。初めて見た秀の涙は、必死に何かを訴えている。 「……こんなに…お前が好きなのに…」 「───」 見る見る和弥の瞳から涙が零れ落ちた。もう現実を受け止めきれない。 ナイフを地面に落とすと、幹の血で汚れている秀の服を握り締めて、声を殺して泣いた。溢れ出す涙は枯れることを知らずに、死ぬことより苦しい胸の痛みに、精神の限界が近付く。 ───いつか、憎しみも悲しみもすべて受け止めて、あんたが好きだと言うから。 一瞬も忘れたことがない君の声。 「幹…幹…幹幹幹幹…みき───」 突然、脳裏に浮かんだ、血の海に横たわる幹の姿。 「幹っ───!?」 怒りに逆上していた血が一気に下がる。悲鳴を上げると、和弥は立ち上がって走り出した。幹がどこにいるかもわからずに走り続ける。雪隆に電話することすら、頭が働かずに走り続ける。 ────あんたは泣き虫だな (お願い、お願いだから、置いて逝くな) ────あんたが憎いに決まっているだろ (憎まれてもいい、置いて逝くな) ────いつか、好きだと言うから (もう、何も望まないから。お願いだから、逝かないで) 足が縺れ、地面に思いっきり転倒する。 早く、早く幹のところに……そう思うが、足が震えてなかなか起き上がれない。下唇を噛み切って、漸く起き上がることに成功したが、直ぐにまた倒れた。惨めに痙攣した指を見つめ、ぐっと握り締める。 この世界に君がいないなら、生きている意味はない 顔を地面に伏せて、獣の吠え声のように泣いた。 +++ 安田陸の電話で、幹の居場所を知った和弥が、大学付属病院に着いた時には既に深夜3時を回り、幹の手術は終っていた。 そして、今加雪隆から幹が助かったことを聞いた和弥は、安堵感にみっともなく号泣した。 ───しかし 「脊髄損傷……?」 説明された言葉を繰り返す。嶋村潤から幹の状態を聞いた和弥は、衝撃に全身から力が抜け、廊下に座り込んだ。隣にいる雪隆が、微かに眉をひそめ、潤を見上げる。 「損傷のレベルは?」 ショックで放心状態の和弥と違い、雪隆は冷静である。潤は瞳を曇らせると、少しの間を置いて「恐らく、T12レベルの脊髄損傷です」と答えた。目を瞠った和弥は、髪が乱れほどの勢いで顔を上げる。 「ナイフで深く傷つけられているので、下肢麻痺があると思います」 「歩けない、ということですか」 はっきりと聞く雪隆の言葉に、和弥は真っ青になった。病的に大量の汗が流れる。 「専門医が検査しないとはっきり言えませんが……傷が深すぎます。右腕は動かすことは可能ですが、後遺症が残る可能性があります。もう外科医としては働けないかもしれません。左顔の傷は───」 これ以上、潤の話を聞けなかった。両腕で頭を抱え込むと、和弥は泣哭した。心を痛ませる、悲痛な泣き声。 すべて、自分のせいだ。秀の気持ちを無視し続けて……追い詰めて、幹を傷つけさせた。本当は、昔から、秀の好意に気が付いていた。恋愛感情を滲ませた熱い眼差しを、和弥は15年以上も黙殺した。関心がなかった。 きちんと、秀の恋を終わらせるべきだった。 ───幹だけはもう傷つけたくなかった。幹だけはこの命に変えてでも守りたかった。 幹から幸せを貰ったように、幹を幸せにしたかった。 血の涙を流す。酷く泣き悲しむ和弥は、もう発狂寸前。過酷な現実が受け止められない。食い込むように髪の毛を握っていた手に力を込めると、その力が強すぎて、髪の毛が千切れた。 驚いた潤が止めようとしたが、和弥は発狂したように暴れ出す。 「和弥さん、落ち着いて下さい」 落ち着かせようとするが、自分の髪の毛を剥ぎ取る異常な行為を、和弥は止めない。 その時、雪隆が突然、乱暴に和弥の腕を掴んでぐっと引き寄せた。氷の矢のような眼差しが、和弥を睨み付ける。背筋が凍るほどの冷たい瞳に、和弥はぴくりと動けなくなる。 「幹は意識を失う前、貴方の名前を呼んでいました」 目を瞠った和弥は、息を詰める。 「貴方が考えている以上に、幹は貴方を深く想っています」 ───和弥 右手で顔を覆うと、和弥は下唇を噛んで胸の痛みに堪えた。呼吸をする度に胸が軋む。……息が吐けないよ。幹。 「今、貴方が出来ることは、幹を抱き締めることだけです」 静かな声は、深く、和弥の胸の奥に響く。 「どんな姿になったとしても、必ず幹を抱き締めてあげて下さい。貴方だけが、幹を救うことが出来るのですから」 瞼を開けることさえ痛いのに、涙は枯れることなく、次々と零れる。嗚咽を押さえれず、和弥は堪らずに雪隆の胸にしがみ付いた。 震える和弥の肩を抱き締めると、雪隆は潤を見上げる。雪隆の言いたいことを察し、潤は小さく頷いた。 +++ 「今加グループの跡取りの貴方が、私に何かの用事ですかね」 片岡不動産販売の取締役会長の片岡宏典は、突然自宅に訪ねて来た今加雪隆と嶋村潤に、警戒を強める。 日本最大のグループ企業の今加は、日本を支える各業界の中核技術を持つ。200兆円を超える莫大な資金を持つ企業としても有名である。 その豊富な資金力を武器に、永田町と深い繋がりがあるが、政治や企業犯罪、または死因が特定出来ない不可解な死亡事件などに、その姿を見せる時もある。 闇の部分を持った、危険な企業グループである。 今加グループ傘下の企業と実際に取引はあるが、片岡が把握している範囲では、特にトラブルはない。何故、跡取りの雪隆が、早朝に家を訪ねにくるのか、片岡には見当もつかない。 「貴方の息子を探しているのですが、今、居ますか」 感情が一切ない雪隆の声に、片岡は怪訝な顔をする。 「息子に、何か用ですか」 息子の秀は、深夜に帰宅すると、部屋に閉じ篭ったまま、一切外に出ていない。 「息子が、何かをしたのですか」 思わず聞き直すと、信じ難い言葉が、片岡に返ってきた。 「貴方の息子は、私の身内の者を殺そうとしました」 「───!?」 眉毛ひとつ動かさずに話す雪隆の言葉の衝撃に、片岡は思わず腰を浮かした。 「貴方の息子に、その責任を取って貰います」 「なっ…何を言うっ!?そんな出まかせ、誰が信じるかっ!」 先程までの丁寧な態度を豹変させ、片岡は真っ赤な顔をして、声を荒げた。小さい溜め息をつくと、雪隆も立ち上がって、片岡に近付く。 顔が半端なく整っている分、感情の欠如した雪隆の瞳は、静閑な威圧を醸し出している。片岡はゴクリと唾を飲み込んで、上半身を引いた。 「私は今、そんなに機嫌がよくありません」 付け加えて言えば、史上最悪な気分です。 「今すぐ、貴方の息子に会わせて頂けないでしょうか」 これ以上説明する気がない雪隆の態度に、片岡の怒りが頂点に達する。 「き、貴様こそ……私を誰だと思っているっ!片岡不動産販売の取締役会長だぞっ!」 片岡が大声を張り上げるが、雪隆は眉毛を微かに動かしただけで、特に表情を変えない。緊迫した沈黙が続く。 暫くして、雪隆は嘲笑った。愚かで勇ましい老人を。そのゾッするほどの冷笑。 「では、死んで貰いましょうか」 「───」 雪隆は億劫そうに言う。片岡が目を瞠った瞬間、雪隆は片岡の腹を蹴り上げた。脇腹の骨が折れる音が響いた。強烈な蹴りに、片岡は吹っ飛ぶように床に倒れた。 傍に控えていた家政婦が、恐怖に悲鳴を上げる。雪隆は注意を払わずに、腹を抱きかかえて悶え苦しむ片岡に近付く。潤も静観するだけ、特に雪隆を止めようとしない。 赤い血が流れていると思えない、冷え切った雪隆の表情。 雪隆は、そのまま片岡の首を靴で踏みつけた。息も吐けない圧迫感に、片岡は手足をばたばたと動かして、雪隆の足を振り払うとするが、ぴくりともしない。この細い体から、想像が出来ない怪力だ。 ───殺される 闇を抱えた暗い眼差しは、片岡を人間として扱っていない。片岡は死の恐怖に、ぞわっと背筋に寒気を感じた。体が震える。 その時、騒ぎを聞いた片岡の妻が、二階から駆け下りた。悲鳴を上げた彼女を、雪隆がゆっくりと見つめる。その途端、彼女は金縛りにあったように口を閉じた。 再び、片岡に視線を戻すと、雪隆はぼそりと再度、同じことを訊ねる。 「今すぐ、貴方の息子に会わせてくれますよね」 +++ 目を覚ますと、魔法は切れ、再び醜いバケモノ (・・・・)に戻った。 バケモノだけでなく、自分の足で歩けなくなり、右腕も上手く動かせなくなった。こんな姿になった自分を、彼はどう思うだろうか。 今加幹は車椅子に座り、青空が広がる窓に近付いた。暫く空を見つめていると、看護師がドアをノックした後に、病室に入ってきた。 「今加先生、彼がまた来ています。どうしますか?今日も帰って貰いますか?」 「……」 背中を向けたまま黙り込む幹に、看護師が困ったように視線を泳がせる。居心地が悪い沈黙が続いた後、「じゃ、今日も帰って貰いましょうか」と看護師が堪えきれずに提案した。それでも何も答えない幹の沈黙を了承と捉え、看護師は病室のドアを開ける。その時 「────彼に会います」 静かに発せられた言葉に、看護師は振り返り「わかりました。では、今、呼んできますね」と言って出て行った。 幹は車椅子のタイヤを回して、車椅子用に低く設置された鏡の前に移動する。 暗闇に覆われた左の視界。 顔の左半分に巻かれた包帯を、幹は解いた。ゆっくりと……少しずつ、バケモノが姿を現す。 鏡には、醜いバケモノが映っていた。 肉を引き裂かれた左顔は、まるで巨大な毒蜘蛛に覆われているようだ。それとも、神の領域に手を出した、愚かな人間が作った人造人間か。火傷を覆った頃と比べものにならないほど、悍ましい顔。 苦しそうに瞼を閉じると、幹は菊池和弥が来るのを待った。 逃げてても何も変わらない。 (───大丈夫だ) 膝の上で強く拳を握り締める。自分に言い聞かせるように、胸の中で「大丈夫だ」と何度も呟いても、不安が消えない。息が上手く吐けなく、胸の上を強く握り締めた。 ───大丈夫だ。 +++ 面会謝絶の看板が掛けられた病室の前で、和弥は深呼吸をする。僅か2週間で誰もが驚くほど窶れた和弥は、目を覚ました幹にずっと面会を拒絶されていた。 充血した瞳、晴れ上がった瞼、真っ青な顔色。痛々しい和弥の姿に、面会を断る看護師も哀れんでいた。しかし、突然、今日、面会が許された。 鼓動が激しく鳴る。震える指でドアをノックをする。入れよ、と数日ぶりに聞く幹の声に、じわりと目尻に涙が浮かんだ。和弥は己を叱咤するように拳を握り締めると、涙を拳で拭った。 ドアをゆっくりと開くと、部屋の中心で、幹が車椅子に座っていた。そして───左顔に巻かれた包帯を取って、傷を曝け出した幹の姿に、和弥は愕然となった。 想像を越えた無惨な姿に、血が一気に引いていく。 ガクガクと震えた和弥は、幹をもう直視が出来なかった。 ───俺のせいだ 「和弥……?」 ───幹は将来のすべてを失った 「和弥」 もう一度、低い声で名を呼ばれると、和弥はビクッと身をすくめた。ゆっくりと幹が近付く。 ───俺のせいだ 「……和弥?」 ───俺のせいだ 自分を殺したいほど責め、大き過ぎる罪悪感に精神的な支障をきたした和弥は、幹の不安そうな声に気が付かなかった。幹が手を伸ばし、俯く和弥の頬に触れようとした時、パニックに陥った和弥は、反射的にその手を乱暴に振り払った。 ───誰か、俺を殺してくれ!!! 沈黙が流れる。 次の瞬間、和弥はハッとなった。漸く、幹の手を振り払ったことに気が付く。謝ろうと顔を上げた和弥は、目を瞠って息を止めた。 表現出来ないほど傷ついた表情。 悲しみと絶望。 「…み、き……」 じわっと冷汗が額に浮かんだ。 幹に、絶対してはいけない。 「お…俺…」 膝が鳴り、和弥は青ざめた。 一体、俺は幹に何をした。 頭が真っ白になった。 「ち、違うんだ…!ご…ごめ…お、俺───」 必死に誤解を解こうとするが、舌が上手く回らない。縋るように駆け寄った時、今度は、幹が強い力でその手を振り払った。じわりと手が赤くなるほどの拒絶。息を呑んだ和弥を、幹が睨み付ける。 「結局、あんたもそうか」 深い絶望を滲ませた声。 ───汚い手で俺に触れるな、バケモノ (・・・・)が 「昔と変わらない」 ───あいつは汚くて醜いモノが嫌いなんだよ 「もう、うんざりだ」 ───醜いバケモノに恋する人間なんて、存在しないよ そんなこと、誰より知っている。なのに、求めてしまった。ずっとずっと、彼を忘れられなかった。 「出て行け」 短い沈黙の後、幹はゾッとするほど低い声で言い捨てた。愕然とした和弥を、噛み殺すような鋭い瞳で、再び「出て行け」と吐き捨てる。 「今すぐ、出て行けっ!」 幹は恫喝した。ビクッと震えた和弥は、のろのろと病室を出て行く。 病室を出た瞬間、和弥は廊下に崩れ落ちるように蹲った。悲痛な嗚咽が、静かに廊下に響き渡った。

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