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第4話 快楽に身を任せ

 潤んでいてもなお孝弘を挑発してくる翡翠の瞳。  孝弘の剛直を必死に咥え込み、舐って吸って愛撫し、小さな嬌声を漏らす唇。  媚肉を掻き分けて前立腺を押し潰し、ひたすらに快感を追いかける指先。 (あぁッもう我慢できねぇ!)  孝弘はわずかに残った理性で半分しか減っていない煙草を据え置きの灰皿に押し付けて火を消すと、炫の頭を鷲掴みにした。 「噛むなよ」    唸るように告げた命令を聞いた炫が反応する前に、孝弘は欲望に任せて自身の剛直を炫の口に捩じ込んだ。  炫が痛みを感じようが苦しもうが、そんなことを考える余裕はなかった。 「ゔッ……ご、ぇ……!」    突然の凶行に、さすがの炫も苦しそうな声を上げる。  だが、眉を寄せたのも一瞬のこと。  潤んだ瞳は勝利に輝き、目元は三日月のように弧を描く。  ぽろりと落ちた涙は決して苦痛からではないのは明らかだ。  孝弘の腰の動きに合わせて蠢く舌。  鈴口から溢れ出る先走りをじゅるりと吸い上げて口内に溜め、しかし、口の端からだらしなく垂らしている姿は無様に見えて扇状的だ。    苦痛に歪んだ表情が愉悦に染まっていく。  そうさせているのは自分だと、そう思うだけで剛直がさらに熱くなる。 「はっ……気持ちぃ……!」 「ふ、ぐ……ぅ、あ……」  至福の喫煙時間を邪魔されて苛ついていたが、そもそも孝弘は炫と体を繋げること自体は好きだ。  むしろ、炫の体だけでなく心だって手に入れたい。  本当はもっと優しく甘いセックスをしたいのだ。    だが、そんな孝弘の気も知らず、炫は際限なく、どこにいても孝弘を挑発し煽ってくる。  それに応じなければいいだけということはわかっているが、極上の体を持った好きな男の前では、孝弘の理性は裏の透けるティッシュより脆くなる。  そうして、毎度毎度激しいセックスをする羽目になるのだ。  セックスに慣れている炫でも、激しい口淫に耐えられなかったらしい。  孝弘の剛直を支えていた右手も、後孔に埋まっていた左手も、体を支えるために孝弘の腰をがっちりと掴んでいた。  苦痛を伴うだろう孝弘の自分勝手な口淫であるはずなのに、動きに合わせて律動する体の下ではガチガチに勃ち上がった炫の昂りが揺れていた。  受け入れる先のないそれは、先端からびちゃびちゃと壊れた蛇口のように透明な水を撒き散らし、ずり下げたスラックスやボクサーパンツ、コンクリートに染みを作る。  それだけじゃない。  孝弘のスラックスにも飛び散っている。    今は梅雨。  雨は降っていないが、鬱陶しい湿気が肌に纏まりついている。  そこに服まで濡れてしまえば不快極まりない。  けれど、孝弘はそんな瑣末なことなど気にもしない。  煙草を吸っている間に炫の痴態に興奮した体は熱く、額から頬、頬から顎先へと汗が伝い落ちていく。  パタパタと降る雫は、炫の背中にまだら模様を描いていた。  ジャケットとシャツの下に隠れている滑らかな肌。  そこに、孝弘の所有印が無数に刻まれている。  病的なまでのキスマーク。  他の男が見たら、その苛烈な独占欲に尻尾を巻いて逃げてしまうだろう。  そう思うと気分が良い。 (炫は俺の……)  イマラチオをしてもなお、炫は悦んでいる。  そうさせているのは孝弘だ。  その優越感に、ぶわりと熱が膨れ上がった。 「ああクソッ……も、イク……!」 「ん、ん……ッ」  一際激しく腰を打ちつけ、炫の口内に白濁を注ぐ。  弾けた快感は、腰から全身に広がっていく。  支配欲と征服欲が満たされて、孝弘の口元に笑みが浮かんだ。  ゆるゆると腰を揺らし、白濁を出し切る。  口の端から唾液を垂らしていた炫だが、孝弘が吐き出した白濁だけは、一滴たりとも溢さないと言わんばかりにゴクリゴクリと喉を鳴らしながら嚥下していく。  最後に鈴口にちゅっと吸い付き、イッても萎えない孝弘の剛直を舐めて綺麗にする。   「ごちそーさま」  んべ、と差し出された舌には、白濁の残滓すらなかった。  孝弘の欲の証はすべて、頬を赤くし、荒い息を繰り返す炫の腹の中。    体を起こした炫の太ももは、激しい口淫で露わになっている。  その肌の上には、白い雫がべっとりと付いており、白い肌にどろりと張り付きながら下へ下へと垂れていっている。 「イマラされたってのに触らずにイッたのか?」 「だって、タカヒロにされること全部気持ちいいんだもん」  うっとりと微笑む炫の右頬にえくぼが現れる。  それがチャーミングポイントだと自己アピールしてきた炫に、当時は呆れていた。  けれど、今は色っぽくて魅力的だと思っている。  そう思えるようなるなんて、体の関係を持ち始めたときには想像すらしていなかったというのに。  炫の頭を掴んでいた手の力を緩め、その頬を撫でる。  湿った肌は指に吸い付くようで、いつまででも撫でていたい。  それどころか、さっきまで孝弘の剛直を嬉々として咥え込み、白濁を飲み下したその口に、赤い唇に、齧り付いて食べ尽くしたいとさえ思う。    青臭く苦いそれに唇を重ねたいと思うなんて、今まで一度もなかった。  そうさせたのは、間違いなく目の前にいる炫だ。  衝動に身を委ねて身を屈めたそのとき、防犯上の理由から鋼鉄製のドアになっている従業員出入口が、金属特有の鈍い音を立てた。  誰かが、来る。

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