6 / 18

第6話

染色を学びに都会の美大へと進学した。 そこで学んだのは、染色だけではない。 “楽しいコト”もだ。 背中一面を被うのは美しき不死鳥。 はじめての一人暮しで借りた安アパートの近くの商店街。 その外れに位置する場所に、タトゥースタジアムがあった。 それがきっかけだ。 はじめて知ったネオンの光。 それと同時期に、耳への装飾もはじめた。 まずは、イヤーロブ。 これから、ヘリックスや、トガラス。 定番に飽きると、アウターコンクやインザストリアルにストレートバーベルを飾るようにもなった。 次第にその行為に自己満足から美しさをも求めるようになり、ホールの拡張や舌ピアスへと移っていく。 自分の美しさの表現。 1度知ってしまうと沼だった。 確かに多少なりとも痛みも伴うが、それはいつしか痛みより快感を伴うようになる。 身体を装飾し、その重みを感じるたびに、内側からなにかが解き放たれるような不思議な高揚感を覚えた。 そして、その快感はやがて皮膚の下にもっと永続的なものを刻みたくなる衝動へと変わっていった。 けれど、ピアッシングのように突発的な衝動ではない。 何ヵ月も考え、願いを込めて選んだ。 美しい絵は、自己表現でもあり、己の想いだ。 復活や再生の意味のある鳳凰。 その美しい鳥が大切に咥えるのは、藍の花。 背負う覚悟だ。 家も、藍も。 失わせる訳にはいかない。 そして腕を飛ぶ、燕。 帰る場所は、あの田舎なのだと強く思える。 それから、手首の内側に咲く白い藍の花。 本来の藍は鮮やかなピンク色の花を咲かすが、腕のものは違う。 染色する度に、青い花が咲く。 本物の藍色の花だ。 すべて意味がある。 けれど、そんなのは他人には分からない。 自分達が観ている時代劇の御上なら刺青は許容するくせに、若者がやれば顔を顰める。 結局、そういうことだ。 分からないからこその偏見だ。

ともだちにシェアしよう!