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第8話

「失礼致します。 藍沢工房です。 ご挨拶に参りました」 「お待ちしてました。 今日は紺さんなんですね」 キッチリと着込んだスーツに身を包み、出迎えてくれたオーナーに頭を下げる。 スーツなのに、足元はスニーカーだ。 舗装された道ばかりではないから。 「綺麗な藍白が出来まして、こちらがそのサンプルになります」 「ほぅ。 綺麗な色ですね」 「白に近い藍色ですが、冷たさはありません。 藍の美しさがきちんと反映されています」 藍は美しい。 それは、見る人が見れば分かる。 けれど、どうしても手で染めると高額に、そして時間がかかってしまう。 それがネックで機械染めにシフトしてしまう人も少なくはない。 だからこそ、こうして家の工房を好きでいてくださる方には挨拶を兼ねて会いに行っている。 これも大切な仕事だ。 手渡すのは、商品だけではない。 「これでなにを縫おうか迷いますね。 浴衣も捨てがたい。 けど、鋏をいれるのも勿体ないですね」 「痛み入ります」 オーナーの言葉が、じわぁっと胸に染み込んでくる。 藍の、俺の仕事の真価を理解してくれる人がいる。 それだけで、鳳凰は広い空を飛ぶことが出来る。 「今度、東京で紺の世界という催事をするんです。 変わらない色、折角続く伝統ですからね。 少しでも多くの人の目にとまってほしいです。 紺さんも、是非いらしてください。 あぁ、でも、工房もお忙しいでしょうし、無理はなさらずに」 「ありがとう。 時間が合えば、お伺いさせていただきます」 一瞬だけネオンが浮かんで、沈んだ。 まるで、土の中に埋もれるように。 土…いや、スクモ…? どちらも俺の一部のはずなのに、なんでこんなことを思うのだろうか。

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