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第10話
昼休憩へと向かう背中を見送りながら、貸してもらったばかりの本へと視線を移した。
俺のこと、認知してたんだ…
変に思われてねぇと良いな
真夏でもフードを被るなんて怪しいだろう。
けれど、ファッションだと言い張れば、立派なファッションにもなる。
……多分。
閲覧室のいつもの席へと腰を下ろし、パラパラと紙を捲る。
穏やかな時間だ。
窓の外は虫達が大合唱をしている。
夜になっても蛙が音楽会を開いていて、五月蝿い。
けれど、喧騒とは違う。
聞こえないふりをしたら、気にならなくなる。
都会の方が五月蝿いようでそうではない。
虫達は加減を知らないから。
なのに、聞こえないふりをしたら、本当に聞こえなくなるんだ。
あそことは全く違う。
ミンミン
ジワジワ
静かな室内。
そんな室内で、活字を撫でた。
深い世界の中へと沈む。
誰も邪魔されることなく、世界のどこにもいける。
なににでもなれる。
本は知識だけを与えてくれるものではない。
冒頭だけだが、既に面白い。
仕事が終わってから続きを読むのが、今から待ちきれない。
ワクワクを抑えながら帰るにはまだ日は高いが致し方ない。
早く仕事を終わらせて、一気に最後まで読みたい。
本を手に閲覧室を抜け出ると、昼休憩から戻ってきたらしい結城さんが頭を下げた。
それに倣って、俺も頭を下げ返す。
「お借りします」
「はい。
ゆっくり楽しんでください」
たったそれだけの会話に身体が高揚した。
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