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第12話
けれど、行かなくても良い理由なんてものはない。
だって仕事だから。
藍染めのポロシャツに身を包み、歩き慣れた道を進む。
1歩足を踏み出せば、身体は進む。
右のポケットからカチャカチャと金属が響くのを、布の上からそっと押さえた。
嫌だと思っても、歩けば図書館へと到着する。
いつもならフードを被るとろこだが、それをしない為に手のひらをグッと握り締めた。
その為にキャップを被ってきたじゃないか、と。
あとはいつも通りだ。
自動ドアが開き、涼しい風が前髪を揺らす。
エントランスを抜け、司書のいる閲覧室へと。
「失礼いたします。
先程お電話させていただきました、藍沢工房です。
ポスターを掲示させていただきに参りました」
女性司書がやわらかく微笑みながら、軽く頭を下げた。
結城さんは貸し出し作業中。
狡い俺はそれに安堵する。
そして、キャップを外して挨拶を済ます。
「お待ちしてました。
先方からも藍沢工房さんがいらっしゃると伺ってます。
こちらに貼ってください」
「ありがとうございます。
では、掲示させていただきます」
案内されたエントランスの1番良い掲示コーナー。
新刊案内や、今月のおすすめ、市の催しや、図書館主催の読み聞かせ会の案内などがキチッと掲示されている。
反対側の壁には、季節の花が美しく生けられていた。
「では、ここに掲示させていただきます」
「はい。
染め物の世界展なんてすごいですね。
やっぱり良いものは長く使えますし、憧れますよね」
「そう仰っていただくと、冥利に付きます。
藍色も様々な青色を出せますから、気に入るお色が見付かると…」
「すみません。
本を探しているんですけど…」
「はい。
ただいま伺います。
すみません、少し失礼します…」
来観者に声をかけられ、司書は席を立つ。
ポケットから部屋から持ってきたセロテープを取り出し、片手で貼っていると不意に背中へと声がかかった。
「テープありますか?」
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