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第13話
カチャンッと、小巻のセロハンテープが手から溢れ落ちる。
「あっ、すみませんっ。
背中から声をかけちゃったから」
「あ、いえ…」
手から滑り落ちたセロハンテープに慌てて手を伸ばそうとして、すぐに手を引っ込めた。
ピアスはここまでの道程で外してきた。
それでも拡張をしているホールは隠すことが出来ない。
ぎこちない動きしか出来ない。
セロハンテープを広い上げた結城さんは、困ったように眉を下げてしまった。
声をかけたられから落とした。
確かにそうだ。
丸見えの指先に力がはいったから。
だけど、結城さんのせいではない。
「手伝います」
「……すみません」
「いえ。
2人の方が早いですから」
異常なくらい心臓が動いている。
ドキドキなんて可愛いものじゃない。
今にも吐きそうなほどだ。
隣に並んだ結城さんから洗剤のにおいがする。
カウンターのない距離。
借りた本からよりもっと濃いにおい。
エアコンの風向きのせいで、蒸せ返りそうだ。
被り直したキャップの隙間から汗か垂れる。
なのに、テープを貼り付ける手から目が離せない。
筋の浮いた腕も、うっすら焼けた肌も、触れそうな距離にある。
少し腕を動かせば触れてしまう。
「綺麗なポスターですね」
「はい…」
他の言葉が思い浮かばない。
精一杯の返事を返すだけだ。
「はい、終わりました」
「手伝っていただき、ありがとうございます。
お陰で綺麗に貼れました」
「いえ。
あの…、さっきは、驚かせてしまってすみません」
「そんなことは…」
ない。
けれど、言葉に詰まる。
「すみませーん、本借りたいんですけど」
「はいっ。
今、行きます。
藍沢さんも、お時間があればゆっくりしていってください」
「はい」
俺はその日はじめて、なにも借りずに図書館を後にした。
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