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第15話
粗い息を整えるのも忘れ、終業ギリギリの郵便局へと滑り込んだ。
「恐れ入ります…っ。
ポーチの忘れ物か、落とし物ってありませんか」
「いえ…。
本日は、忘れ物も落とし物もございません」
「……、ありがとうございます」
局員に落とし物はないと言われても、辺りをキョロキョロと見渡してしまう。
この人の言葉を信じていない訳ではない。
けど、ここまでの道程にはなかった。
僅かな願いを込めているんだ。
そのまままた地面に這いつくばるよう身を屈め、ポーチを探す。
ポイ捨てされたペットボトルにイラつくほど、精神的にキている。
イライラするほど暑いし、見付からないし。
自身の思い通りにならないからイラ付いているのなら、それは悪い癖だ。
けれど、今はそんな気持ちを抑えることが出来ない。
後は図書館だけ。
ここが折り返し地点だ。
ポスターの横を通り過ぎ、閲覧室へと急いだ。
「こんに…」
「あの…っ、落とし物、…ないですか」
「あ、はい…。
あります」
驚いた顔をした結城さんの顔にも構わず、カウンターに身を乗り出す。
ある…?
そして、結城さんが指差すカウンターの隅には藍染めのポーチ。
それを見て、全身の力が抜けた。
「あ、った……、マジで焦ったぁ…」
俺のポーチだ。
カウンターに両手を付いて脱力すると、その下にポタポタと汗が落ちているのに気が付いた。
「すみません…。
失礼だなとは思いましたが、中を見てしまいました…。
お名前もありましたし、藍沢さんのだとは思ったんですけど、確信が持てなくて…」
「…あー、はい」
あ?
汗を拭おうとして、自身がパーカーを着ていないことに気が付いた。
「ポーチの中身を確認していただいても……」
「あ…」
「どうか、されましたか…?」
「…あ、いや……、」
あまりに自然な反応に、自分の格好を忘れてしまっていた。
やけに涼しいはずだ。
いつものようにフルジップパーカーを羽織っていない。
フードもないどころか、袖もない格好だ。
背中の鳳凰は見切れ、腕の燕は見せびらかしている。
藍の花も。
「どうぞ」
普通の顔をして手渡されるポーチ。
中身の確認を、と言われ、手のひらにピアスを出していく。
ラブレットスタット、エキスパンダー。
ストレートバーベルもある。
指輪もだ。
すべてきちんと揃っている。
けれど、再購入出来るアクセサリーより、このポーチが手に戻ってきてくれたことがなにより嬉しい。
「ピアスですよね。
格好良いですね」
「え…?」
「別に、ピアスをしたまま来館されても構いませんよ。
付け外しも大変でしょう」
「…いや…」
「そのポーチも素敵ですけど、刺青も立派ですね。
わ、背中もっ。
腕のは燕ですか?
見せていただいても構いませんか」
キラキラした目に頷くしか出来ない。
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