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第16話
誰もいない2階の学習室へと2人で入ると、背中を向ける。
そして、シャツを捲り上げた。
見られてしまった。
ピアスも。
刺青も。
その事実は、今更隠したところで覆らない。
なら、コテンパンに打ちのめされた方が楽だ。
どうか、立ち直れないくらい拒絶してくれ。
「鳳凰だ。
なにか咥えてますね」
純粋な疑問に、解答を差し出す。
「…、藍の花…」
「藍…?
じゃあ、この鳳凰は藍沢さんなんですね。
藍沢さんは、藍を世界に広めるんです。
あれですよね、花言葉はあなた次第。
藍沢さん次第で、藍と一緒にどんなところにも行けるんですね。
素敵です。
すごく似合ってます」
結城さんの言葉が、身体の奥の1番やわらかな場所を包んだ。
この人は、なんでそんなことを……
欲しかったのは、自由なのか。
……違う。
そんな簡単なものではない。
自分でも分からない、俺を、自分自身でも受け止めきれない、ありのままを受け入れてもらうこと。
家族でも、都会で関係を持った奴らでもなく、ただ1人に。
「結城さんが好きです」
「え?」
口を衝いた言葉に驚いたのは俺だけじゃない。
振り返ると、目の前の顔が真ん丸になっていた。
なんか面白い顔をしてるな、なんて失礼なことを思ってしまう。
「ちが、くて…」
「違うんですか…?」
「違わ…なくもない…」
「俺の好意に気付いていると思っていたんですけど」
「好意…?」
そんなものは感じたことがなかった…………はずだ。
いや、都会で薄汚れてしまったので、淡いものは見付けられていないのかもしれない。
必死に頭をフル回転させていく。
「私物の本を貸したのは、藍沢さんがはじめてですよ。
なのに、ポスター貼るの手伝おうとしたらなんか反応がおかしかったですし…」
「え、あれが?」
「あれがです」
こんな可愛らしいアピールははじめてだ。
セックスを強請るでもなく、ホテルへと誘うでもなく、小学生のような可愛いアピール。
ただ好きだという気持ちを見せる、大胆なアピールだったらしい。
クスクスと笑うと、結城さんは嬉しそうに花を咲かせた。
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