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第17話
閲覧室へと入ると、いつものように頭を下げる司書。
だけど、少しだけかわったことがある。
細められる目が滲ませるのは“特別”だ。
口角も喜びを隠しきれていない。
司書がそれで良いのかと思わなくもないが、“俺”にだけだから良いか。
それから、俺自身もパーカーを羽織りはするが、フードを被ることはなくなった。
暑ければ、腕も捲る。
耳を彩るピアスもそのまま。
シャラシャラと音をたててしまうものだけを外してポーチに入れている。
カウンターの前を通り過ぎ、そのまま奥へ。
この前借りた本が面白かったので、同作者の他の作品を借りる予定だ。
それから、ばあちゃんに頼まれた本も。
姿が見えた。
貸し出す際に少しだけ会話が出来たらそれで満足だ。
「じゃあ、先にお昼いただきます」
「ゆっくり休んでください」
静かな室内に司書の声が微かに響いた。
どうやら、結城さんの昼休みの時間らしい。
すると、すぐに足音が近付いてくる。
書架の間から顔を出したのは結城さん。
「こんにちは」
「こんにちは。
藍沢さん。
少し、時間良いですか?」
「はい」
昼飯の時間が少なくなってしまうが良いのだろうか。
外に食べに行くなら尚更。
だけど、心配も他所に結城さんは俺を手招いた。
そして、エントランスへと2人で戻ると、結城さんは鞄からスッと封筒を取り出した。
「藍沢さん。
藍の世界展のチケット購入したんですけど、一緒に行きませんか…?
藍沢さんの作品も展示されるって聞いて…どうしても見たくて…。
勿論、予定が合えば」
「はい。
勿論です」
俺の口からは、まっすぐな言葉が出た。
どうやら、鳳凰は広い空を飛ぶ楽しさを思い出したらしい。
結城さんとなら、東京にも行ける気がする。
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