4 / 100
LESSONⅠ:第4話
「このソファーで俺と身体が触れることが嫌なのか? そんなに縮こまらなくてもいいだろ?」
「だって……どれだけここで女の子と抱き合ったのかなって思っちゃうの。雅紀さんならもっと大きいソファー買えたでしょ? ワザとこんな勝手に身体が触れちゃうようなサイズを買ったんじゃなくて?」
ほんとうは誰かの温もりが欲しくて仕方ないのに、口先は強がってしまい、目線は雅紀を鋭く睨んでしまう。
「ナギサはまだそんなこと言っているのか?」
「だって週刊誌の帝王なんでしょ? 雅紀さんは」
彼が女性ボーカリストをプロデュースするとみんな妊娠するのではないかと囁かれるくらいのルックスと雄々しいオーラを雅紀は持っている。
女性陣は彼に見初められようと仕事でのチャンスをアプローチの機会と履き違える現象すら起きた。しかし雅紀は一貫として「特定の恋人は作らない」と言い放ち、女性と取り合わないらしい。
たしかに週刊誌で女性とのツーショットをたくさん撮られているけど、このマンションへ連れ込んでいる記事は出ていなかった。
彼のDNAを搾取したい女たちが策略を立てて雅紀に近づくけれど願いは叶わず、自分の名前を売るために週刊誌に書かせていると言ったほうがあながち間違いではないのかもしれない。
「週刊誌にネタを提供するような女を俺が相手にするわけないだろ。それに……俺はナギサのことがずっと好きなの」
二十二歳のナギサが着ている触り心地のよい部屋着に触れながら、三十歳の雅紀は八歳も年上とは思えないくらい子供のような無邪気な笑顔を見せた。
「だからこの部屋の合鍵も渡しているんだ。ナギサが来たいときに来られるように」
いまナギサがこの部屋にいるのは、彼の恋人だというわけではない。
ただ、雅紀に合鍵を渡されて「俺に会いたくなったら来ていいから」と言われただけなのだ。好きだという言うくせに、「特別な関係」になろうとしないことにナギサはどこか心を許せずにいた。
「ねぇ、す、好きとか……本気で言っているの? 可愛い女性がたくさん周りにいるのに、なんでボクなのかがいまだに分からないよ」
「またそんなこと言って。ナギサは俺のこと嫌いなの? やっとこんな風にできる距離になったのに」
顔を曇らせた雅紀がナギサの両肩を掴むと、とつぜん覆い被さってきた。
「ちょっ、重っ!」
大柄な雅紀の肢体を押しのけられず、抵抗も許されなかった。
すると唇に柔らかい体温が触れる。
(……き、キス、された?)
「いやぁっ!」
口付けをされたナギサは驚いてしまい思いっきり雅紀の唇を噛んだ。当たり前だが雅紀は「いてぇなぁ……!」と悲痛の表情だ。
「だって、なんでいきなりキスなんてするの?」
ナギサにとって、いまのキスが人生で初めての経験だった。彼の唇が触れた部分は熱くて、身体じゅうが火照ってしまう。
「好きだからだよ。俺はナギサのことが大好きだからキスがしたいの」
「……ボクは分からない。好き、とか、恋とかそういうの」
ともだちにシェアしよう!

