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LESSONⅠ:第9話
〈なぁナギサ、さっきの契約、締結してくれるか?〉
雅紀は適当に歌を口ずさむとすぐに彼の想いが脳へ流れ込んだ。
ほんとうに雅紀が【偏愛音感】を持っているか確かめるためにナギサも彼の声に合わせてハミングする。
〈んー、まだわからないけど。恋人契約って何をするの?〉
〈お、興味ある証拠だな。ざっくりと言えば恋人がする行為をなぞるだけだ。さっきみたいにキスをしたり、それから俺はナギサを喜ばせることをたくさんしたい。それに可愛い声も聞きたいしな。どう? もっと具体的に言わないと分からない?〉
やはり彼に思ったことが伝わったようだ。返事がダイレクトに脳内へ響き渡る。
〈……もう、バカな雅紀さん〉
〈ん? ナギサ、顔が赤いけど何を想像したの?〉
脳内に流れる言葉たちが鳴りやむと、もう一度、ナギサは雅紀に唇を奪われた。
ふたたび身体じゅうのすみずみへ広がる快感。これが恋という気持ちなのか、性的な快楽なのかはどうしてもまだ区別がつかない。
でも【偏愛音感】は告げている。
雅紀と両想いだということを。
それなのにナギサは「仮恋人」の契約を締結した。本来なら「恋人」になるべきシーンだ。
でもいまのナギサにとって、「仮恋人」の段階がちょうどいいのかもしれない。恋人が存在する生活をナギサは理解していないからだ。
もし裏切られても「仮恋人」なのだから、いつだって破棄できる。
ナギサは逃げ道を作るように、自分自身に言い聞かせて、雅紀の唇からそっと離れた。
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