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LESSONⅡ:第11話
高速道路を二時間くらいだろうか、海沿いの街まで愛車を走らせた。
太平洋に面した千葉の海岸は海水浴シーズンを終えているせいか、人はほとんどいないようだった。
海の地形に合わせて作られたシーサイドラインを走るのは気持ちがいい。
地平線のようにどこまでも海を沿う道が続く。ドライブは歌うことと同じくらいナギサの精神状態を安定させた。たびたびこうしてドライブで気分転換をすることが何よりも癒される。
歌手としてお金を稼げるようになるとナギサはすぐに免許を取った。それからローンを組んでこの愛車であるスポーツカーを買った。
決して安い買い物ではなかったが、歌手という仕事に就けた自分へのご褒美のつもりだった。
様々な場所を走るというよりかは、夜の首都高か天気のいい日はこのシーサイドラインを走らせることが多い。
なぜこの海岸線を選んだかというと、小さいころに住んでいた街の近くだからだ。
両親が離婚するまで双子の兄である三波漣音 と四人で海沿いの街に暮らしていた。
そのことを知ったのはナギサを引き取った母の手元に唯一残っていた小さいころのアルバムだった。その写真の一枚に、海をバックにナギサと漣音が並ぶ写真が挟まっていた。
バラバラになった父と母、そして家族というコミュニティ。
いまは家族それぞれが、どこで何をしているのか知らない。
両親には会いたいと思えないが、唯一の兄弟である漣音には会いたいとずっと思い続けている。だけれど父に引き取られてからの居場所はまったく見当がつかずにいまに至っている。
母に尋ねても「死んだと思え」と言うだけだ。
ナギサはその母の言葉をいちども信じたことはなかった。
インターネット上で歌を動画配信し始めたのは、もしかしたら漣音が見つかるかもしれないという期待があった。有名になれば自分を見つけてくれる期待を込めて活動し続けた。
それに最近では【偏愛音感】を持っていることにナギサ自身が気づいたということも背中を後押しする出来事だった。
自分が持っているなら、双子である漣音も能力があるのではと思い始めた。
それは漣音もナギサのことを探すくらい想ってくれたら、という場合に限るけれど。
そもそも恋愛感情でないと【偏愛音感】は発動しないが、強度の【偏愛音感】の持ち主になると恋愛関係になくても色や映像が流れる現象もあるらしい。
諸説ある不確定な情報ではあるが一縷の望みにかけてナギサは定期的に海辺で歌うようになったのだ。
人がいない海岸はありがたい。大きな声で歌っても不審がられないからだ。
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