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LESSONⅡ:第12話
車を海水浴場用の駐車場へ停める。
砂浜を歩いて波打ち際に立つと、じっくり波の音を聞いた。
今日は天気だけではなく、波も穏やかで日差しによっては海は黄金色に輝いていた。
「ねぇ、漣音。ボクね、生まれて初めて好きな人ができちゃったかもしれないんだ」
海に向かってナギサは自分のデビュー曲を歌い始める。
誰にも見られない場所で歌うのは解放感があって、普段より腹の底から声が出る。
漣音に聞こえているかどうかはさほど重要ではない。心にある靄を歌で晴らしたかった。
もしも兄弟がそばにいたら恋の相談とは限らなくても、様々な悩みを共有することができたかもしれない。
そういう気持ちがないといえば嘘になる。手元から零れ落ちたものを探す行為は執着の始まりだ。それでも失ったかどうか分からないからこそ、もっと見つけたくて必死に探してしまうのだ。
「漣音は誰かを好きになったりしたことあるのかな……。ボクはまだよく分からないけれど、【偏愛音感】は恋だっていうんだ。その人の心の声が聞こえてしまうから」
脳内で雅紀にキスされたシーンが一時停止したようにずっとこびりついている。
もし漣音に【偏愛音感】で自分の気持ちが伝わっていたとしたら、この脳内スクリーンは覗かれているかもしれない。
しかし漣音からの返答はまったくなかった。
そもそも今までも海岸で【偏愛音感】の能力が発動したことはない。ただ波の音が一定のリズムを刻みながら耳に届くだけだ。この海はいつだって穏やかな波音を響かせる。
「ねぇ、漣音。いまどこで何をしているの? ボクに会いたいって思ってくれているのかな」
母に引き取られたが存在を無視されながら過ごしてきた。
ずっとひとりだったナギサは家族というコミュニティを知らない。
せめて兄に会いたい。
そして兄も会いたいと思っていて欲しい。
誰かを求めずに生きていたいのに、やはり誰かに必要とされたかった。
すると穏やかだった波は突然大きくなり足元を濡らす。すると脳内には誰かに突き飛ばされて浜辺に倒れた自分の姿が映し出された。
「えっ? な、なに、この映像は」
突き飛ばされた感触すらあるような生々しい映像にナギサは頭を両手で抱えた。
もしかすると【偏愛音感】が発動したのかもしれない。声が聞こえる場合と映像が頭のなかに流れるパターンが起こることをナギサは理解していた。
「……ボクを突き飛ばしたのは漣音なの?」
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