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LESSONⅡ:第14話

 首都高を降りるとさっきまで広々とした海を目の前にしていたのが嘘のように渋谷の街は人や車であふれていた。  事務所が借りている宇田川町の駐車場にはマネージャーが使う黒のミニバンが常に停まっている。その隣の空きスペースへナギサは車をぴたりと駐車させた。エンジンを切ると雑踏に紛れて響いていた排気音が渋谷の街に溶け込んだ。  センター街の奥に位置する宇田川町は渋谷駅周辺の開発とは違い、年月を重ねた雑居ビルが立ち並んでいる。  ナギサの所属事務所である「株式会社R&R」はバブル時代に建てられた古い外観のビルだ。部分的にひび割れが目立つタイルはこれまでの時間の経過を感じさせる。  プロデューサーの高輪理人とマネージャーの田端涼太が立ち上げた事務所のアーティストはナギサだけだ。理人と涼太だけで経営から楽曲制作まで請け負っているから、人員的にアーティストを増やすことができないのかもしれない。  ナギサは自分がもっと稼げば、スタッフ増やすことができるかもしれないし、ビルだって最先端のオシャレなビルへ移れるかもしれない。それが彼らに対する恩返しになると信じていた。  数多いる動画配信者の中からナギサのことを見つけてくれた理人と涼太は大学の友人であり同性同士の恋人らしい。  仕事でもバディを組んでおり、公私ともに四六時中、一緒にいても仲が良い。その雰囲気にナギサは心を許していた。  ただ、ひとつだけ解せないことがある。それは恋人が近くにいるというのに理人はナギサとのユニット活動で自らを恋人役として設定したのだ。  本来の恋人であるマネージャーの涼太がどう感じているのか恋を知らないナギサには推測すらできない。しかし理人がナギサと身体を寄せあったりするパフォーマンスがステージ上で行われると、涼太が表情を曇らせることくらいナギサにも理解できた。それが「恋をしている最中の行動」へ含まれるのならば、ナギサも学ばなければならない。 (もし雅紀さんが……誰かを抱き締めたり、キスしたりしたら……)  想像しただけで胸の奥が潰されたように痛い。  その現象が恋なのだろうか。誰かに定義して欲しいくらいだ。 (母が知らない男を連れて帰ってきたときも……こんな感じだったかも)  母を抱く毎回代わる知らない男たち。  それを受け入れる母にも同じような想いを抱いたことがあった。  なぜ母は目の前にいる自分へ触れずに、知らない男たちばかりに触れているのだろうか。 (ボクは必要とされてないのかな……)  ひとりにしないで、と口には出せずに母を睨むことしかできなかった。  一度でいいから、その腕でナギサだけを抱き締めて欲しかったのだ。  雅紀が違う誰かを愛でる姿を頭の中から排除しようと頭を横に何度も振る。 (恋人になれば、苦しくならないのかな?)  ナギサは車のキーを手のひらで強く握りながら、事務所のドアを静かに開けた。

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